年明け早々、陸上界に激震が走った。日清食品グループは11日、全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)を2度制した強豪・陸上競技部を縮小し、駅伝から撤退することを発表。東京五輪マラソン代表選考会となるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC、9月15日)の出場権を獲得済みの佐藤悠基(32)、村沢明伸(27)を除く12選手が退部を余儀なくされた。東京五輪を1年半後に控えた中での決断は大きな波紋を広げているが、この影響は陸上界だけにとどまるのか――。

 1995年創立の同社陸上部は、アテネ五輪マラソン6位の諏訪利成(41=現コーチ)ら五輪選手を輩出。マラソン日本記録保持者の大迫傑(27=現ナイキ)も所属の過去があり、長らく日本長距離界をけん引してきた。財団を通じた若手の海外挑戦支援、小学生大会への協賛の実績もあるだけに、各方面に少なからぬ影響を及ぼしている。

 日本陸上競技連盟の麻場一徳強化委員長(58)は「びっくりしている。アスリートの受け皿も小さくなる。東京五輪も近いので残念」と困惑を隠せない。ある実業団監督は「他の実業団チームに影響を及ぼす可能性も否定できない」と懸念。また、同部の中谷圭佑(24)は「新しい環境を探しつつ引き続き頑張る」、青山学院大の原晋監督(51)も「追随するチームが出ないことを願う」とそれぞれツイッターで思いをつづった。

 本紙の取材に対し、同社広報は「さまざまな環境が変化したことから、世界を目指す選手の競技活動をサポートする体制に切り替えることとなりました」との方針を説明。入社を予定していた大学生2選手については「内定取り消しという報道が見受けられますが、そういった表現は当社としてはつらいです」と悲痛な思いを吐露しつつ「十分な練習の環境を提供することができなかったため、他のチームで活動できるよう関係各所と調整中。誠心誠意、対応していきます」と新天地が決まるまで支援するという。

 では、なぜ東京五輪1年半前のタイミングでの撤退なのか。同部は今年元日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)では16位。近年は成績が下降線をたどっているが「経営状態の問題とは考えられない。いきさつが分からない」(某実業団監督)と首をひねる関係者は多い。踏み切った経緯について同社は「企業スポーツのあり方については、これまでも継続的に検討してきました」と語っており、その中で「総合的な判断」として撤退に至ったという。

 日清食品といえば、テニス界のトッププレイヤーの錦織圭(29)、大坂なおみ(21)が所属。ともに14日開幕の4大大会、全豪オープンに出場する予定で、同社はコラボ商品やイベントなどで両者をプッシュしている。大坂が昨年の全米オープンを制覇した際は株価も上昇。それだけに、こちらの“撤退”については「そのような話は一切ありません」と完全否定した。

 以前、同社は2人の活躍について「創業者の安藤百福はいくつもの壁を乗り越えて『チキンラーメン』『カップヌードル』を発明し、ゼロから新たな市場を開拓しました。世界の強豪を相手に戦う錦織選手、大坂選手の活躍は、まさにその象徴です」と見解を述べた。その安藤氏をモデルにしたNHK連続テレビ小説「まんぷく」が今まさに大好評で放映中。「今回の陸上競技部の件と、朝ドラは特に関係がありません」(同社)と言うものの、お茶の間で脚光を浴びる日清食品が全く別の形で注目を集めてしまったのは、何とも皮肉な話。不透明な部分も少なくないだけに、今後の影響が心配される。