【女子パシュート】美帆「金」秘話 スケート界「10年の苦闘」過去の蓄積「データ」今ここに開花

2018年02月22日 16時30分

寄せ書き入りの日の丸を前に笑顔の(左)から菊池、佐藤、、高木菜、高木美

【韓国・江陵21日発】冬季五輪史上最多11個目のメダルは金! 平昌五輪のスピードスケート女子団体追い抜き(チームパシュート)決勝、高木美帆(23=日体大助手)、佐藤綾乃(21=高崎健康福祉大)、高木菜那(25=日本電産サンキョー)の布陣で臨んだ日本は2分53秒89の五輪新でオランダを破り、金メダルを獲得した。菊池彩花(30=富士急)を含めた4人で頂点に立ったが、王国撃破は一朝一夕で成し遂げられたものではない。日本選手団今大会3個目となる金メダルの裏にある「秘密」とは――。

 今大会のメダリスト3人を揃えたオランダとの決勝は抜きつ抜かれつのデッドヒートとなった。高木美が先頭で引っ張った序盤は日本がわずかにリード。3周目でオランダがわずかに前に出た。

 日本は今季W杯で3戦全勝、世界記録を3度も塗り替えた。スピード王国にリードされても、積み上げてきた自信は揺るがない。5周目で逆転すると、その後はリードをジワジワと広げ、最後は1秒59の差をつけてゴールを駆け抜けた。

 1500メートルの銀、1000メートルの銅と合わせて、日本人女子では夏冬を通じて初めて、同一大会で3色のメダルを獲得した高木美は両手を上げてガッツポーズ。日の丸を掲げてのウイニングランには準決勝のカナダ戦に出場した菊池も加わった。

 出場した3つの個人種目でいずれもオランダに金メダルをさらわれた高木美は「決勝の前は『オランダに勝つ』しか考えてなくて、メラメラしてたんで勝てて良かったです」。打倒王国に闘志を燃やしていたことを明かした。

 前回ソチ五輪でメダルなしに終わった日本はナショナルチームを結成。オランダからヨハン・デビット・コーチ(38)を招聘し、合宿、遠征などで年間300日以上行動を共にした。団体追い抜きは金メダルが狙える種目として徹底強化。一糸乱れぬ隊列、スムーズな先頭交代とチームとして技術を磨いた。

 日本スケート連盟の橋本聖子会長(53)はこう打ち明ける。

「オランダがパシュートに特化した練習をやっているとは聞いたことがない。陸上の400メートルリレーで日本がバトンワークに力を入れているのと少し似ているかもしれない」

 他国も状況は王国と同じだ。韓国女子は予選でチームが崩壊した(男子は銀メダル)。実は五輪開幕前、本紙記者は韓国メディアから「韓国は個人の強化に力を入れて週に2日しかチーム練習をしない。どう思うか?」との質問を受けた。メダルが期待される開催国だが、この状況をある程度予見していたのだろう。日本にそんな不安はみじんもなかった。

 さらに連盟はこれまで疫学データの収集にも力を入れてきた。昨年末の代表選考会ではレース後、各選手の耳にばんそうこうが貼られていた。これは採血の跡。「10年以上データを取ってきて、やっとそれを生かせるようになってきた」(橋本会長)。主に乳酸値の計測が目的だ。

 広報として代表に同行するカルガリー五輪男子500メートル銅メダルの黒岩彰氏(56)も「今取ったデータが今の選手に役立つというより、過去のデータが今の選手に役立っている」と説明する。1998年長野五輪の10個を上回る11個目のメダルは、決してここ数年の強化の結果ではない。日本のスケート界が実に10年以上地道に積み上げてきた“歴史”の成果なのだ。ヨハン・コーチ就任後は、合宿などで乳酸値以外にもさまざまなデータの蓄積を開始。今後のさらなる強化に役立てていく。

 高木美は「パシュートで勝てるということは個人種目でも勝てる能力を自分たちが持っているんじゃないかと思える。メンタル面でも大きな勝ちじゃないかと思う」。この快挙は必ずしもゴールではなく、さらなる打倒オランダへの第一歩にする。エース高木美を中心に日本が次なる王国を目指す。

【団体追い抜き】チームパシュートとも呼ばれる。1チーム3人編成で同時に滑る。2チームがリンクのホーム、バックから同時にスタートし、女子は1周400メートルを6周(2400メートル)する(男子は8周)。3人目の選手がゴールしたタイムを争う。メンバーは必ず1周は先頭に立って滑らなくてはならない。

【プロフィル】

 たかぎ・みほ 1994年5月22日生まれ。北海道出身。北海道・札内中3年で2010年バンクーバー五輪出場。今大会1500メートルで銀、1000メートルで銅メダル獲得。1500メートル、3000メートルの日本記録保持者。164センチ、58キロ。

 たかぎ・なな 1992年7月2日生まれ。北海道出身。2014年ソチ五輪1500メートルで32位、団体追い抜きで4位。今大会は5000メートルで12位だった。17年世界距離別選手権マススタートで2位。155センチ、48キロ。

 さとう・あやの 1996年12月10日生まれ。北海道出身。五輪初出場。マススタートで2016年世界ジュニア選手権、今季W杯第1戦優勝。今大会は3000メートルで8位入賞。157センチ、56キロ。

 きくち・あやか 1987年6月28日生まれ。長野県出身。前回ソチ五輪1500メートルで31位、団体追い抜きで4位。今大会は3000メートルで19位、1500メートルで16位。5姉妹の次女で妹の悠希、純礼はショートトラックの今大会代表。170センチ、61キロ。