2度目の引退 伊達公子「ため息事件」の真実

2017年09月14日 11時00分

伊達公子

 テニスのジャパン女子オープン2日目(12日、有明テニスの森公園)、今大会を最後に引退を表明している元世界4位の伊達公子(46=エステティックTBC)は世界ランク67位のアレクサンドラ・クルニッチ(24=セルビア)に0―6、0―6でストレート負けし、2度目の現役生活に幕を下ろした。勝負のため、徹底的に自分を貫いた勝負の鬼だが、それを象徴していたのが2013年に世間を騒がせた「ため息事件」。伊達の葛藤と事件の真相に迫った。

 挑戦の連続だった2度目の競技生活の終わりがついにやってきた。雨の影響で予定より1時間半近く遅れて始まった試合は1ゲームも取れず、奪ったポイントもわずか13。49分間のラストマッチを終えると、ネットを挟んでクルニッチと固く抱き合い、観客に何度も手を振った。「とうとう終わってしまいました。今は寂しい気持ちのほうが強いかな」と素直な思いを口にした。

 2008年、37歳で現役復帰を果たし世間をあっと言わせた。年齢や常識にとらわれず、コートで戦う姿は多くの人々の支持を受けた。一方で、勝負のために、自らを貫き通すその強烈な個性は時に波紋を広げた。象徴的だったのは、13年の東レ・パンパシフィック・オープンで起こった「ため息事件」だ。

 伊達のショットがミスとなるたびに、会場の女性たちが「はぁぁ」とため息をついた。これに激怒し「シャラップ!」「ため息ばっかり!」と絶叫。確かにため息を浴びて気持ち良いわけはなく、伊達に同情する声もあった。だが、チケットを買って見に来てくれたファンを叱ってしまった形になったのも事実だ。

 日本女子テニス界の第一人者の言動に対する影響は大きく、その後、ため息の発信源だった中高年女性ファン層が、伊達の国内試合に足を運ぶ数は明らかに減った。「大会によっては50人程度の観客の時もあった」(事情に詳しいテニス関係者)。ファンあってのプロ選手にとっては致命的な“失態”。だが、その後もファンにこびを売ることは一切なし。自分の道をまい進した。

 最後の雄姿を一目見ようと、この日は2835人が観戦に訪れた。その中には元夫のミハエル・クルム氏(47)の姿も。この日はさすがにどんなに劣勢でも会場にため息はなく、拍手や歓声に包まれた。試合を終え、勝負師の鎧(よろい)を脱いだ伊達は「プレーヤーとして、最後まで勝負にこだわってきたので『伊達公子は怖い』という印象が強かったと思う。勝負に徹してのことだと、お許しください」と笑顔で“謝罪”した。

 引退セレモニーで、国内外の後輩選手らにメッセージを送ると、勝負の鬼も思わず感極まった。

「長いツアー生活では、勝ちたいと思う時や苦しい時などがあるが、きっと時間がたてば、テニスができることをすごく幸せに思う時が来る。限られた時間の中で思い残すことなくやりきり、人間的にも成長してほしい」

 一切の妥協もなく完全燃焼。未来のテニス界を担う後輩たちに“勝負とは何か”を身をもって教え込んだことは間違いない。