ウイニング・リターンで飾った。ドイツ・シュツットガルトで26日午後(日本時間27日未明)に行われた女子テニスのポルシェ・グランプリのシングルス1回戦で、元世界ランキング1位でドーピング違反による1年3か月の資格停止処分から復帰したマリア・シャラポワ(30=ロシア)が世界36位のロベルタ・ビンチ(34=イタリア)に7―5、6―3で勝った。長期ブランクの経緯から、主催者推薦での今大会出場にテニス界で反発が渦巻く中、コートに帰って来た元女王。その“処遇”を巡っては論争が続きそうだ。

 トリプルマッチポイントを握った第2セット9ゲーム目、バックハンドの強烈なリターンが決まると、シャラポワは上半身をかがめてガッツポーズで歓喜を示した。審判へのあいさつ後も同じ動きを繰り返し、投げキスを2回。なおも握り締めたこぶしを上下させて冷めやらぬ喜びにひたっていた。

「この瞬間を長いこと待っていた。(テニス大会が行われる)アリーナは少女時代から私にとってのステージ。一時期、ラケットを置いて勉強やビジネスもしたけれど、テニスこそが、私がずっとやってきたこと。私は競技者」

 主催者推薦での出場に異論も噴出する中、場内には「お帰りなさい、マリア」との幕が掲げられるなど、観客は元女王を温かく迎えた。だが、クレーコートで対峙したビンチは容赦なかった。

 シャラポワは持ち前の強打をビンチの丁寧なスライスショットなどで深く返され、第1セット2ゲーム目で早くもブレークを許す。ジュースを繰り返す大激戦の3ゲーム目をブレークして流れを変えると、要所でこの日計11回のサービスエースが決まり、約1時間の熱闘の末にセットを先取した。

 第2セットは接戦の2ゲーム目を制して先にブレークし、サービスゲームをキープ。40分あまりのこのセットは冒頭の強烈リターンで終止符を打った。2回戦は現地時間27日、世界8位のアグニエシュカ・ラドワンスカ(28=ポーランド)を破った同43位のエカテリーナ・マカロワ(28=ロシア)と対戦。過去6勝0敗とあって分がいい相手だ。

 WTA(女子テニス協会)のカテゴリーで「プレミア」に入る今大会、シャラポワは2回戦進出で55ポイントを獲得。優勝なら470ポイントが得られる。禁止薬物メルドニウムに陽性反応を示した昨年1月の全豪オープンを最後に資格停止処分で実戦から遠ざかり、ランキング対象ポイントは0に。昨年初めに4位だったランキングからも外れ、まさにゼロからの再起だった。

 今大会後も5月のマドリード・オープン、BNLイタリア国際と高カテゴリー大会への主催者推薦出場が決まっていると言われるシャラポワ。すでに、5月28日開幕の4大大会第2戦・全仏オープンでの“処遇”が話題になっている。

 英テレグラフ紙(電子版)は、フランステニス連盟の会長がシャラポワの主催者推薦に否定的な意向を示していると報じた。ワイルドカード(WC)と呼ばれる主催者推薦は通常、開催国の有望選手やけがでランキングが下がった有力選手を想定して与えられるものとされる。シャラポワの場合、ドーピング違反という事態に鑑み、判断には塾考を要するという。

 これには、かつて男子ダブルスでグランドスラムを達成し、同世界1位にも輝いたオーストラリアの元選手トッド・ウッドブリッジ氏(46)がツイッターで、前出の記事を引用して「本当なら、浅はかな判断。彼女はもう処分を受けている。前に進むべき」とのコメントを加えている。

 全仏オープンで予選なしでストレート・インを確実にするには、ランキング100位相当が必要とみられる。現在の100位は617ポイント。シャラポワが優勝やそれに準じる成績を続けない限りは難しい。となると予選かWCとなる。

 女子テニス界では、今年の全豪シングルス制覇で、オープン化以降の4大大会で史上最多の23勝を挙げたセリーナ・ウィリアムズ(35=米国)が妊娠しており、長期欠場も予想される。この時期にコートに戻ってきたシャラポワは、話題性を考えても欠かせないと考える関係者もいるようだ。

 一方で、今回のWCによる復帰にはかねて、元世界1位のキャロライン・ウォズニアッキ(26=デンマーク)や男子の現世界1位アンディ・マリー(29=英国)らから疑問の声が聞かれた。4大大会で元女王はどう扱われるのか。