ロシアの国ぐるみのドーピング違反問題で、スイス・ローザンヌに本部を置くスポーツ仲裁裁判所(CAS)は21日、国際陸連がロシア陸上チームのリオ五輪出場を禁じた決定を支持する裁定を発表した。選手個人の権利を度外視し、連帯責任を負わせることを認めたことで、国際オリンピック委員会(IOC)がロシアのリオ五輪全競技からの締め出しを決断する可能性が高まった。このまま全面除外となれば、スポーツ大国の分裂、崩壊は必至。政治的な衝突も懸念される状況だ。

 組織的ドーピング違反を認定されたロシアが国際陸連から資格停止処分を科されたことに対し、ロシア選手全てが国際大会に出場できないことを不服としたロシアの陸上選手68人の訴えは却下された。ドーピング違反で摘発された選手だけでなく“シロ”の選手も「連帯責任」により五輪出場の夢が絶たれた。

 CASの裁定は、ロシア陸連は国際陸連から資格停止処分を受けているため、国際陸連の規則の下で行われる大会に出場できないとする決定は妥当、というもの。この裁定を注視していたIOCは24日に電話による緊急理事会を開き、8月5日に開幕するリオ五輪へのロシアの出場可否を協議する。IOCは「我々は今回の決定を調査し、分析しなければならない」との声明を発表したが、世界反ドーピング機関(WADA)が今月18日に公表した報告書では、ロシアの不正が夏季と冬季の大半の競技に及んでいたことが判明。ロシアの全競技の選手がリオ五輪から締め出されることはもはや不可避と言っていい。

 当然、ロシア側は反発を強めている。女子棒高跳びの世界記録保持者、エレーナ・イシンバエワ(34)は「陸上競技を葬り去った全ての人に礼を言う。もはやスポーツではなく、政治だ」とタス通信に対してコメント。自身のインスタグラムにも「私たちが欠場する中、外国選手らは安心して(リオ五輪に)出場し、偽の金メダルを取ればいい」と強烈な皮肉を書き込んだ。

 ロシア外務省のザハロワ情報局長は「スポーツに対する犯罪」で「五輪運動への打撃」になると非難。ムトコ・スポーツ相は「何の法的根拠もない、主観的で、多少政治的な決定だ」と批判し、報告書で禁止物質をアルコールと調合した「ステロイドカクテル」の使用が指摘されたことに触れ「そんなカクテルを使って2週間後にメダルを取れるなんてあり得ない。プロは絶対に信じない」と述べた。

 ロシアオリンピック委員会(ROC)は声明で「潔白な選手の権利を侵害している」とし「最後まで闘う」と宣言した。ムトコ氏は民事裁判に訴える可能性にも言及し、人権問題に発展する可能性も出てきている。

 今回のCAS裁定がロシア国内に及ぼす影響の大きさは計り知れない。ムトコ氏が「近年、スポーツへの政治介入は度を越している」と、ドーピング問題はロシアと政治的に対立する欧米が仕掛けたとする認識を重ねて示している。それだけに、このままリオ五輪から除外となればプーチン大統領も何らかのアクションを起こすことが考えられる。

 ただ、ロシア国内も決して一枚岩でないのも事実。留任を続けるムトコ氏の責任を問う声も出始めており、ROC前会長のチャガチョフ氏は、ムトコ氏とROC現会長のアレクサンドル・ジューコフ氏(60)に責任があると指摘。「このようにしてスポーツを発展させられないことをムトコ氏は熟慮する必要がある」と述べた。

 さらに、今回の裁定でも五輪出場の可能性を残している2人の選手に対しての風当たりも強い。ドーピング問題を内部告発した女子中距離のユーリア・ステパノワ(30)と米国に活動拠点を置く女子走り幅跳びのダリア・クリシナ(25)については国際陸連も国旗や国歌を使えない「中立選手」として参加を認めている。だが、国内では「祖国の裏切り者」との声が続出しており、快く思われていないのも確かだ。

 IOCの緊急理事会がロシアの締め出しを決定すれば、歴史に残る大きな汚点となる。スポーツ界の未来は決して明るくない。