有名デザイナーの佐野研二郎氏(43)が手がけた2020年東京五輪のエンブレムをめぐる盗作疑惑問題が、またまた奇妙な展開になってきた。エンブレムの審査委員代表を務めたグラフィックデザイナーの永井一正氏(86)が「公表されているデザインは佐野氏の応募作を一部修正したもので、原案はベルギーの劇場のロゴに似ていなかった」と発言。どうやら疑惑を晴らそうとしたようだが、ネット住民にしてみればツッコミどころ満載なうえに佐野氏の発言とも矛盾が生じ、結局は火に油を注ぐ事態を招きかねない。

 審査委員代表を務めた永井氏によれば、佐野氏の“原案”は東京の頭文字「T」を強調した図案だった。

「(盗作されたとする)リエージュ劇場の『L』を想起させる右下のパーツはなかったが、複数回にわたって、デザインを練り直す中で、『L』にも見えるデザインが盛り込まれた」(永井氏)

 修正されたのは、商標権に抵触するおそれがあったからという。

「(佐野氏の“原案”は)国内外の商標を確認した際、似たようなものが既にあったため、元のイメージを崩さない範囲でパーツを一部動かすなどして何度か微調整したもの」とし、「コンセプトも成り立ちも(リエージュ劇場とは)まったく違う」と永井氏は盗作疑惑を否定した。

 まるで、別のものに似ていたから修正したらリエージュに似てしまった。だから佐野氏はパクっていない、と言っているようだ。だとしたら、修正しなければ危ないデザインをなぜ選んだのか? 選考はデキレースか、との疑問が再燃する。

 加えて“原案”がリエージュ劇場のデザインと似ていなかったとすれば、なぜ今月5日に行った会見で公開しなかったのかも不可解だ。

 同会見で佐野氏は、パクリ疑惑を否定する根拠材料として、エンブレムのデザインから派生するAからZまでのアルファベットのタイポグラフィー(活字)を持参し「形を変え、文字になったりパターンになったりする展開が可能なエンブレムです」と胸を張り、リエージュ劇場のロゴとは成り立ちが違うことを強調していたが、“原案”は違うものだったとはひと言も言わなかった。

 だが、永井氏が「原案はリエージュ劇場のロゴと似ていなかった」と佐野氏をかばったことで、ネットではタイポグラフィーについて「パクリ疑惑が出て、あわてて作ったものに違いない」という声であふれている。

 また永井氏の発言そのものの信ぴょう性まで疑われている。これまで永井氏は審査経緯については五輪組織委員会から口止めされていたという。今回、カミングアウトしたとはいえ、佐野氏の原案デザインが示されなければ、リエージュのデザインとの類似性は判断がつかない。また、国内外の商標と似たものがあったというが、これでは、原案自体が“パクリ”だった可能性が出てくる。

 組織委は「似ている、似ていないの判断は組織委の法務的な判断。商標上は問題のない形にできたと考えている」と答えるのみ。

 そもそも修正が必要なデザインを選んだ理由もわからない。デザイン会社の関係者は「コンテストなどでも選ばれてから作品を修正することは、珍しいことではない」と言うが、世界に向けて発信し莫大な利権にも関わる五輪ロゴに当てはまることではないはず。

 今回の永井氏の発言に対し、ベルギーの劇場ロゴをデザインしたオリビエ・ドビ氏は「もともとのロゴが、今とは違い、修正を加えたものであれば、修正前に戻せば問題は解決します」と日本のテレビ局の取材にコメントしたが、果たして…。

 永井氏の発言は、新たな疑惑を生んだとしか思えない。