金メダリストが描く第二の人生とは――。スピードスケート女子の高木菜那(29)は、2018年平昌五輪で日本女子初の2冠に輝き、2月の北京五輪でも団体追い抜き(パシュート)で銀メダルを獲得。世界の舞台で活躍し、4月に現役引退を表明した。現在は新生活をスタートさせ、テレビなどで活躍中だ。本紙単独インタビューの最終回では、自身を救ったあこがれの人との出会いと、未来像を明かした。
     
 引退会見から2か月あまり。菜那は「いろんなことにチャレンジしたい」との思いから、テレビなどのメディア露出はもちろん、イベント活動も精力的に行っている。「いろんな仕事をいただいているので、必死に初めてのことをこなしています」と苦笑いを浮かべながらも、テレビ出演で1つの夢が実現。あこがれの人とのサプライズ対面が菜那の心を動かした。

 菜那「しゃべくり007」(日本テレビ系)で(高校時代から大ファンだった)俳優の妻夫木聡さんに会えたことが本当にうれしかったです。北京五輪後、私のこの4年間は無駄だったのかな、続ける意味はあったのかなと考えることが多かったのですが、妻夫木さんが言ってくださった言葉で、私がやってきたことは、応援してくださったみなさんに何かをちゃんと伝えられていたんだなと思うことができた。北京五輪まで続けてきてよかったなと初めて思えました。

 不完全燃焼に終わった北京五輪。今も心の傷は完全には癒えていない。それでも、妻夫木から「第二の人生も楽しんでください」とエールを受け、前を向く一つのきっかけとなった。競技人生には区切りをつけた。しかし、すでに菜那は自分が目指す究極の理想像を抱いている。

 菜那 最終的には、まねしてもらえたり、あこがれてもらえるような人にならないといけない立場の人間だと思っています。そういう面では、自分に恥じない生き方ができたらいいなと思います。「私、カッコ悪いな」という人間にはなりたくない。いま愛されているかどうかは分からないけど、愛される人でありたい。そういう人になれるように、いろんなことに目を向けていかないといけない。いろいろチャレンジして一番向いているものだったり、一番やりたいと思うことに挑戦していきたいです。

 当たり前のように、スケートに没頭してきた人生だった。今後は自分と向き合う時間を設けながら、第二の人生の設計図を模索している。その一つとして、アスリートの知見を生かし、女性のためのトレーニング方法などを考案したいという。

 菜那 引退してアスリートじゃない人たちと接する機会が増えたので、一般の人たちのためにエネルギーをあまり使わなくても、効率のいい運動ができるメニューを考えてみたいです。例えば適度な食事と組み合わせながら、目指すべき姿になっていく様子を実感できたり、仕事の効率が上がったりしたらすごいと思う。もちろん勉強しながらだけど、何か自分だからこそできるものを発信できたらいいなと思います。

 現在は視野を広げるべく、さまざまな仕事に励む日々。小さな枠組みに固執しないことを心掛けている。当然、全ての活動が成功する保証はない。それでも、自らの足で道を切り開いてきた菜那に迷いはない。

 菜那 私は優柔不断なので、周りにいろいろ聞いてしまうところもあるけど、自分の決めなきゃいけない道のときは、しっかりと自分の声は聞いてあげたい。やっぱり目標を決めないとモチベーションが上がってこないので、自分がどうしたいというところを一度整理して決めていきたいですね。

 現役時代は155センチと小柄な体格でも、持ち前の負けん気で努力を重ね、世界と渡り合えることを証明した。きっと次なるステージでも最高の輝きを放ってくれるに違いない。

(敬称略)

☆たかぎ・なな 1992年7月2日生まれ。北海道出身。兄の影響で小学校1年からスケートを始める。高校卒業後、日本電産サンキョーに入社し、2014年ソチ五輪に出場。18年平昌五輪では、団体追い抜き(パシュート)とマススタートで金メダルを獲得。夏季を含めた五輪の同一大会で日本女子初の2冠に輝き、紫綬褒章を受章した。北京五輪は1500メートルで8位入賞、パシュートで銀メダル。4月に現役引退を表明し、現在はテレビ出演など幅広い分野で活躍している。155センチ。