北京五輪閉幕から2週間あまり。日本選手団は過去最多となる18個のメダルを獲得した一方で、表彰台を逃した選手たちの姿も多くの人の心を動かした。レスリング女子で五輪を含め世界大会16連覇の吉田沙保里(39)の目に、メダルに届かなかった選手はどう映ったのか。ノルディックスキー・ジャンプ混合団体でスーツ規定違反により失格となった高梨沙羅(25=クラレ)、ともに汗を流した戦友でもあるスピードスケート女子の小平奈緒(35=相沢病院)への思いを、本紙インタビューで語った。

 ――北京五輪を改めて振り返ると

 吉田 みんな頑張って、たくさんの感動をもらいました。今は10代の子たちも出ているし、親の気持ちとまではいかないけど「ケガしないで頑張って!」という思いで応援していました。

 ――特に印象深かった選手は

 吉田 メダリストはもちろんですが、表彰台に手が届かなかった選手の姿も強く心に残っています。私も最後の2016年リオデジャネイロ五輪で負けてしまったのですが、思い通りにいかないのが五輪。運にも左右される。

 ――高梨選手は不運な出来事に直面した

 吉田 びっくりしました。選手はこのスーツは大丈夫だと思って飛んでいるのに、後から「ダメだ」なんて。あんなことが起こるなんて、信じられなかったです。

 ――沙保里さんも以前に国別対抗戦のW杯で、審判長の介入でタックルよりタックル返しを取られて負けたことがある

 吉田“負けさせられる”じゃないですけどね。完璧な勝ち方をしなかったから仕方がないが、私の得点になってもいいんじゃないかというのはあった。ああいうので人生が変わってしまう人もいるんです。

 ――高梨選手も涙を流した

 吉田 つらいなか、ちゃんとSNSで自分の気持ちを伝えたのはすごく偉い。そして、いろんな人の励ましを読んだと思う。私も負けた時に「こんなに応援されていたんだ、もう一回頑張ろう、恩返ししよう」と思えた。沙羅ちゃんも立ち直って、その後のW杯で勝ってくれた。本当に良かったと思う。よく頑張った。今までで一番うれしいって言ってましたね。試練を乗り越えられ、さらに大きく、強くなったと思う。一生懸命やってきたからこその復活。誰もができることではないです。

 ――他に印象に残った選手は

 吉田 小平さんは約10年前に、長野・菅平高原でのレスリング強化合宿に来てくれて、一緒に練習をしているんです。2人背負って坂を駆け上がるきつい練習をやったり。北京のレースを見て、メール出したんですよ。久々に。「最後まで滑る姿に感動したよ。一緒に練習したなって懐かしかった。こっちに帰ってきたら、ゆっくりね」などと、書いて送りました。丁寧なお返事をいただきました。

 ――そうだったんですか

 吉田 五輪って、メダルを取る取らないや、取っても色で反響が全然変わる。今回は、高木美帆ちゃんとか、若い世代が金メダルを取って、輝いていた。そんな後輩たちのなかで、小平さんはひたむきに頑張り続けていて。メダルはなくても自分を出し切っていた。35歳であの舞台に立てたことがすごいんです。私は小平さんの気持ちがとても分かるから、どうしても伝えたくなりました。まだ試合が残ってるって言っていたし、また頑張ろうって思ってくれたら。

 ――季節を超えたアスリート仲間ですね。そういえば、沙保里さんも夏季の北京五輪に出ている。現地の映像を見て、懐かしかったのでは

 吉田 どこか不思議な気持ちでしたね。私は決勝(の相手)が中国選手で、入場したら「加油(ジャーヨウ)!」ってすごくて。「ああ、これめっちゃアウェーだ」って思ったのに、試合開始の笛が鳴ったら、全部日本語の「頑張れー!」って聞こえました(笑い)。あれ、変な“ゾーン”に入ってましたね。懐かしい。そんなことを思い出しながら、みなさんの熱戦に夢中になった日々でした。

【五輪での無念とその後】2018年平昌五輪で銅メダルの高梨は北京五輪で金メダル取りに挑んだが、1回目に98.5メートル、2回目に100.0メートルと大ジャンプを見せられず4位。表彰台を逃した。混合団体では1回目に金メダルの期待が膨らむ103.0メートルを飛んだが、スーツの規定違反により失格。日本は4位に終わった。

 高梨は号泣し、自身のインスタグラムに謝罪文を掲載するなど今後が心配されたが、五輪閉幕後のW杯で見事な復活。2日のリレハンメル大会で優勝すると、オスロ大会でも3位、優勝の好成績を収めた。

 平昌五輪女子500メートルで金メダルの小平は北京五輪でも活躍が期待されたが、連覇を狙った500メートルで17位、高木美帆が優勝した女子1000メートルでは10位に終わり、涙を流した。

 それでも自身のインスタグラムに「成し遂げることはできずとも、自分なりにやり遂げることはできたと思っています」と記した通り、ひたむきさと最後まで勝負に挑んだ姿勢は多くの人の共感を呼んだ。