これ以上私物化するな! 開幕まで2か月を切った北京五輪を前に、中国では女子テニス選手の彭帥が張高麗元副首相から性的関係を強要されたと告発するなど、改めて人権問題がクローズアップされている。依然として国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は開催一辺倒の態度を崩さないが、取材に応じたラグビー元日本代表の平尾剛氏(46=神戸親和女子大教授)は中国とIOCの関係を糾弾した上で〝マネーファースト〟の姿勢に疑問を投げかけた。


 ――IOCから次々と問題が浮上している

 平尾氏(以下平尾)  東京五輪をきっかけにIOCの実態が明るみに出ました。コロナ禍でも強行開催するその姿勢に、嫌気が差した人が多いんじゃないかな。とはいえ、これほどまでに肥大化した組織はすぐに変わりません。なので、今後も引き続き批判を続けていかないといけませんが、少し潮目は変わったかなと思います。

 ――北京五輪を控えているが、テニス選手・彭帥の安否が懸念されている

 平尾 これはれっきとした人権問題です。国家の介入により人権が侵害されていることに、私たちはもっと声を上げないといけません。なぜなら、この種の問題は国外からの働きかけなしで問題解決に至ることはほぼないからです。新疆ウイグル自治区の弾圧事件も合わせて考えると、今の中国では「平和の祭典」たる五輪を開催する資格があるとは思えません。

 ――中国の行動に反発するべく、外交ボイコットが起きている

 平尾 外交ボイコットはしかるべき対応だと思いますが、結局アスリートは派遣するんですよね。1980年モスクワ五輪は西側諸国がボイコット、84年ロサンゼルス五輪は東側諸国がボイコットして選手を派遣しなかった反省から、アスリートを犠牲にしない方法を選択したのだと思いますが、どうしても中途半端な印象は拭えません。

 ――北京五輪開催に批判が高まる中、IOCは2回のビデオ通話で彭帥の安全をアピールした

 平尾 安否が確認できたから開催できると呼びかけたいのでしょうが、開催に向けたパフォーマンスにしか思えません。しかも、バッハ会長は「選手が政府の支持を受けて参加することを歓迎するが、それ以外は政治の領域であり、我々は政治的中立の立場にある」と言っていました。先の東京五輪を見ても分かるように、スポーツと政治はもはや切り離せません。だから政治的中立な立場はあり得ないんです。したがって政治的中立性を盾にするのは逃げでしかないと思います。

 ――バッハ会長はチャイナマネーに目がくらんでいる

 平尾 チャイナマネーにすり寄っているのが明白ですね。人権問題という認識がなく、逃げ腰のまま中途半端に「彭帥選手は無事ですよ」みたいな形でメッセージを発信してしまう軽薄な態度が、そもそも問題です。結局五輪を無事に開催してお金を動かしたいだけなんでしょう。具体的には一部のステークホルダーに利益をもたらしたいというのが見え見えです。五輪憲章を棚上げし、とにかく開催にこだわる姿勢に商業主義への偏向が見て取れます。

 ――IOCはどう変わるべきか

 平尾 もうIOCは解体しないといけないんじゃないですか。極論かつ理想論かもしれませんが、IOCは大金持ちとか資産家たちの集合体になっていますからね。現実的にとても難しいことだと理解してはいますし、相当な時間を要するでしょうけれど、これから先もスポーツの価値を維持するためには避けては通れないことだと思います。これを機にIOCと決別し、五輪に頼らずとも競技を継続していけるシステムの構築を真剣に考える。そして、アスリート及びスポーツ関係者もきちんと意思表示をすること、つまり言葉を持つこと。社会とのつながりをいま一度考え直さなければ、スポーツの未来は暗いと思います。


 ☆ひらお・つよし 1975年5月3日生まれ。大阪府出身。中学時代にラグビーを始め、同志社香里高、同志社大を経て、神戸製鋼に加入。99年ラグビーW杯では日本代表に選出された。しかし、2005年ごろから脳振とうの後遺症に悩まされ、2年後に現役を退いた。自身のケガを機に、06年から神戸親和女子大学大学院の文学研究科修士課程教育学専攻で研究をスタート。現在は同大の発達教育学部ジュニアスポーツ教育学科で教授を務める。182センチ。