【取材の裏側 現場ノート】東京五輪レスリング女子76キロ級3位決定戦で皆川博恵(34)が敗れ、長年のライバルだった元五輪2大会銅メダリストの浜口京子(43)は号泣した。大けがを乗り越え、大舞台に立った後輩に試合中から感情移入。一緒に戦っている気持ちになったそうだ。取材エリアで「よく頑張ったよ」と浜口に声をかけられた皆川も「京子さん以来のメダルを取りたかった」と涙を流した。

 日本最重量級女王を決める舞台で、浜口対皆川(当時は旧姓鈴木)の試合は幾度となく繰り広げられた。国内負けなしの絶対女王・浜口と、その分厚い壁をなんとか破ろうとする皆川。当時を取材した印象では、練習中の2人は会話をする様子はなし。常にピリピリとしたオーラを感じていた。「朝のランニングから博恵ちゃんを意識していた。負けたくなかったから。練習に力が入った」と浜口も当時を振り返る。

 お互いに優しい穏やかな性格。今思えば、鬼に豹変しないと戦えなかったのだろう。しかし同時に〝ヘビー級〟で戦う努力を最も知っている同志でもあった。小柄な日本人が、身長もパワーも桁違いの猛者が揃う最重量級で勝つ苦労は計り知れない。浜口が戦列から離れた後、浅草で焼肉を食べながら腹を割って話したときには「博恵ちゃんとはやはり特別な関係。分かり合える」(浜口)と痛感したそうだ。

 皆川は「京子さんみたいに、自分も真摯に競技に向き合わなければと教えてもらった選手」と浜口に大きな影響を受けたと話す。日本ヘビー級女王を巡る2人のライバル物語。互いをリスペクトし、高め合ってきたからこそ、流れた涙だった。

(レスリング担当 中村亜希子)