【フィンランド・ルカ29日(日本時間30日)発】ノルディックスキー・ジャンプ男子のW杯個人第3戦(HS142メートル、K点120メートル)で、42歳5か月の“レジェンド”葛西紀明(土屋ホーム)が今季初優勝を果たし、自身の持つW杯史上最年長記録を更新した。不可能を可能にし続ける男は今季の“戦力外予想”から一転、2018年平昌五輪での「大役就任」に大きく前進した。

 ラージヒルで銀、団体で銅メダルを獲得したソチ五輪の勢いは継続していた。「会心の1本。すべてがぴたっとはまった」と振り返った1本目は145メートルの最長不倒をマークしてトップに立つ。2本目は不利な風の中、131・5メートルと踏ん張り、合計272・2点でシモン・アマン(33=スイス)と並び同点優勝。ソチ五輪2冠のカミル・ストッホ(27=ポーランド)は不在だが、42歳5か月での快挙に葛西は「やったぞー! レイチェル!」と怜奈夫人の“愛称”を絶叫。「3位か4位かと思ったけど、まさかの同点優勝だった。あり得ない」と声を震わせた。

 ソチ五輪の活躍で大ブレークした葛西はオフの間、イベントに忙殺された。練習量は昨年の半分にとどまり、体重調整も難航した。11月7日のシーズンイン会見で葛西は「ベストから2~2・5キロぐらい重い」と明かしていたが、全日本スキー連盟関係者には「5~6キロ増えてる」と告げるなど、“激太り”で状態は最悪。五輪の反動もあり、連盟は「4年間目一杯やってきた。オリンピックでのアスリートの負担はすごい。葛西は世界選手権(来年2月)に間に合うかどうか」(同関係者)と、ジャンプのレジェンドを“戦力外”に指定していたほどだった。

 ところが、葛西は笑顔を絶やさなかった。慣れない講演も「緊張感をジャンプに生かせたらなと思ってやってました」。メダルを通じて触れ合った1万5000人以上の声援も力に変えた。同い年で元プロ野球日本ハムの盟友・稲葉篤紀氏(42)が今季で引退。心の支えを失ったが、“球界のレジェンド”中日の山本昌投手(49)の契約更改をチェックし、サッカーの“キング・カズ”三浦知良(47=横浜FC)との対面で魂を奮い立たせた。

 すべてはまだ手にしてない「五輪金メダル」の夢のためだ。古川年正競技本部長(67)は4年後の平昌五輪では「今度は日本選手団団長。選手兼でいい」とソチで主将を務めた葛西に“全権”を託すことを表明している。無謀とも思えるプランも、この結果で現実味を帯びてきた。衰え知らずの葛西には、いかなる常識も当てはまらないのだ。

 優勝後、葛西は怜奈夫人に電話で報告した。「いつもパソコンのライブ速報を見てくれている。泣いていました」。愛する人のサポートがレジェンドの背中をさらに後押しすることは間違いない。五輪後のシーズンも主役は葛西。ますます目が離せなくなりそうだ。