その場しのぎの東京五輪にNOだ! 陸上男子短距離でバルセロナ五輪に出場したオリンピアンの杉本龍勇法政大教授(50)が本紙のインタビューに応じ、新型コロナウイルス禍の中での東京五輪開催を疑問視。国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会の運営能力の欠如を糾弾し、このまま強行開催すれば〝レガシーなき五輪〟になると警鐘を鳴らした。

 ――東京五輪を巡る現状をどう見ているか

 杉本氏(以下杉本) 大事なのは感染者を出さない、感染拡大を導かないことだ。「安心・安全」など、すごくファジーな言い方をしているが、IOCがすごくずるいのはレガシー効果を最大限にすると(2012年の)ロンドン大会以降訴えているのに、今はレガシー効果の話をまったく出さない。

 ――本来は大会後に何が残るのかが重要だ

 杉本 今のパンデミックの状況では開催してOKではなく、開催したことで後に何が生まれてくるかが大事。これだけ世論が反対していて、世界中が懸念をしている。開催によって新しいものが生まれることを実現できるかが最終目標になるべきだ。

 ――現在は何かを生み出せる状況ではない

 杉本 最低限、感染拡大させないことは当然。だが、それを達成するオペレーション能力は全然見えない。半年後、1年後に「あの時五輪をやったことで世の中にプラスに働いた」とか「運営方法で感染拡大を防げることが明確になった」ことなどが大事。今、それは何もない。その場しのぎでしかない。開催しさえすればいいという利害関係しか見えてこない。

 ――大会組織委員会の運営能力が試されている

 杉本 安心、安全と言って人が集まる状況でも感染を拡大させないことが示せるならすごいことだが、水際対策はグダグダ。本当に残念なことになっている。

 ――IOCへの批判も高まっている

 杉本 今回のことでIOCに感じたのは、スポーツ以外のことに関心がないということ。スポーツがなくなったら何も残らない。社会の中でスポーツが影響を与えられる一助にはなっても、スポーツが社会を変えられるわけではない。社会の一部としてどういう役割ができるか。スポーツが主役で世の中が動くというのは違う。結局IOCはスカスカ。社会においてスポーツを外したら、存在意義がない。IOCほど軽いものはない。

 ――スポーツが中心と考えてしまっている

 杉本 平和な時期ならそれでもいいかもしれないが、人の生命や生活が危機にさらされている時期で、スポーツ大会を開催することによって何を与えられるのか。もっと世の中全体のことを踏まえたうえでの行動や決断、発言を含めて配慮すべきだが、今回はそこが欠けている。社会全体の懸念に対して準備ができておらず、自分たちスポーツの主張だけをしているので、いまだに不安が拭えない。反対意見や開催に対して警鐘を鳴らされていることを直視しないのではなく、理解する能力がないのだと思う。

 ――主催者には社会全体の状況を踏まえて柔軟な対応が求められる

 杉本 極端な話、開幕前日にも中止できるし、大会期間中に中止することもできる。そういう選択肢を持ったうえで(運営上の決断を)引っ張ってきているなら運営的に賢いと思うが…。終わった後のことが考えられていないのは疑問だ。

☆すぎもと・たつお=1970年11月25日生まれ。静岡県出身。法大経済学部教授。浜松北高、法政大などで陸上短距離選手として活躍。1992年バルセロナ五輪に100メートル、400メートルリレーの日本代表として出場。リレーでは6位入賞を果たした。引退後は指導者に転身。浜松大、ラグビーのサントリー、Jリーグの清水、湘南、大分などのほか、近年は岡崎慎司(前ウエスカ)や堂安律(PSVアイントホーフェン)などへの指導でも知られる。