カオスだ。東京五輪開幕1か月前の23日、複数の反五輪団体が東京・新宿区の都庁前に集結。約2時間にわたって大規模なデモ行進を敢行し、都心をジャックした。一方で、五輪賛成派と一触即発の事態となり騒然とする場面もあった。今後も反対派は中止を訴え続ける覚悟で、五輪開催期間中のデモ行進も宣言。「五輪」と「反五輪デモ」の〝同時開催〟が現実味を帯びてきた。

 この日は1894年にピエール・ド・クーベルタン男爵が国際オリンピック委員会(IOC)を創設したことを記念した「オリンピックデー」。ちょうど開幕1か月前という特別な日は、皮肉にも「五輪」ではなく「反五輪」が主役となってしまった。

 午後6時、都庁第1庁舎前には6つの反五輪団体が集結。東京大会の公式エンブレムが掲げられた建物の前には「NO! Olympic(ノーオリンピック)」「まだまだ間に合う五輪中止!」と記されたボードや横断幕が出現し、この異様な光景を多数の海外メディアが報道した。

 反対派の本来の目的は小池百合子都知事(68)へ怒りの声を上げることだったが、肝心の小池知事は過労により前日22日に入院。デモに参加した女性は「直談判したかった」と肩を落とした。それでも、デモ行進は過去最大の規模となった。午後7時には都庁前をスタートし、新宿西口から東口へ。「五輪反対音頭」を大合唱し「オリンピックやめろ!」を連呼。帰宅途中のサラリーマンらの通行人が足を止め、スマホで撮影する若い女性もいた。デモの参加者は集合時から徐々に増え、午後9時前に新宿のアルタ前に到着した時には約850人に膨れ上がっていた。

 道中では幾度も緊迫したシーンがあった。五輪開催を訴える国民主権党の街宣カーが反対派の目の前に出現。密集してデモを行う人々に対して「これ、五輪できるでしょ。こんな密になっちゃって、五輪はできるって証明していますよ!」とツッコミ。さらに「主張が矛盾している。これなら上限50%じゃなく、フルスタジアムで開催できますね」と言い放ち、なんとデモ行進と並走して挑発を続けたのだ。

 その後、反対派はソーシャルディスタンスを取って密を避けたものの、両者は近づくたびに罵声を飛ばし合った。街宣カーの窓越しに中指を突き立てる反対派、拡声器で応戦する国民主権党は一触即発の事態となり、周囲は騒然。警察の制止によって大事には至らなかったが、世論を二分する中止派と開催派の対立を具現化したような抗争劇であった。

 反五輪団体の中心的存在としてデモ隊をまとめた男性は「五輪より国民の命が大事。多くの人にアピールできて良かった」と満足げ。さらに「五輪開催中もデモを行いたい。警察に許可されるかどうか分からないけど、できる限りやります」と宣言した。

 五輪開催中は聖地の国立競技場はもちろん、各競技会場の周辺に出没するとみられる。くしくも大会組織委員会の橋本聖子会長(56)はこの日の会見で「祝祭感をできるだけ抑えることが課題。祝祭あふれる会場にはならないと思います」と話したが、仮に開催中にデモが実施されればお祭りムードどころか、いまだかつてない不穏な空気が五輪を支配することになる。果たして、五輪本番はどうなってしまうのか。