これで世間の理解を得られるのか! 東京五輪・パラリンピック組織委員会が日本看護協会に対し医療スタッフとして看護師500人の確保を要請したことが明らかになり、物議を醸している。新型コロナウイルス禍による看護師不足が懸念される中での〝五輪優先〟の姿勢には、医療現場が猛反発。現役の看護師からは「人手不足で救える命まで救えなくなる」と悲痛な叫び声が上がっている。

 どこまでも〝五輪ファースト〟ということなのか。組織委が各会場や選手村などに派遣するため、日本看護協会に看護師500人の確保を要請していたことが判明した。しかし、4月に入って全国で新型コロナウイルスの感染者数が再び増加。大阪市では自宅療養中に容体が悪化したコロナ患者の入院先が決まらず、救急車などで待機を強いられる案件が複数報告されるなど、切羽詰まった状況が続いている。

 そんな中、組織委は26日に理事会を開催。武藤敏郎事務総長(77)は、昨年の段階で日本看護協会とコンタクトを取っていたことを明かした上で「こういう話は事前に相談しないといけない。直前になっても対応できない」と説明した。

 とはいえ、各地で医療体制が切迫しているのは紛れもない事実だ。「十分に承知しているが、大会開催にあたってはコロナと関係なく、常に医療体制を考えなければいけない。暑さ対策への整備も必要になる。地域医療への悪影響を及ぼすのは避けなければならないので、シフトや勤務時間の調整をしながら対応したい」と理解を求めた。

 武藤事務総長らの〝楽観的〟な姿勢には、ネット上で「どう考えても五輪より国内のコロナ対策が大事」「本末転倒」「コロナ禍が落ち着いたら、逆に医療スタッフの方は休ませてあげたい」などと批判が渦巻く中、当の医療現場の怒りは沸騰寸前だ。

 ある看護師は「もともとコロナが流行する前から医療現場では『人が足りない』『医療崩壊している』と言われていた」と明かす。その矢先にコロナが世界各地で大流行したことから「現場の人たちはより疲弊し、医療崩壊した。次は『ワクチンの接種のために人を補助してください』と言われて、さらに人が減っている」と表情を曇らせた。

 現時点でコロナが終息するメドは立っておらず、医療現場に一人でも多くの人手が欲しいというのが本音といったところ。しかし、その動きに逆行する要請には「それでもなお五輪に人手を取られるのは、死人を増やすだけかなと。助けられたはずの命が人手が足りないせいで助けられなくなるのは、体だけじゃなくて精神的にもつらいから、やめてほしい」と危機感を口にする。

 また、政府や組織委の説明責任を求める声も飛び出している。別の看護師は「ある程度の知識とか技術、経験のある看護師を育てるのは時間がかかる。あと1年以内に何とかしろというのも酷。五輪をやること自体が本当におかしな話だし、ギリギリのところで医療に従事している人たちに、どういうつもりで(五輪を開催すると)言っているのか説明してほしい」とぴしゃり。

 東京五輪の開幕まで残り3か月弱。組織委の橋本聖子会長(56)は「世界が共通する課題に挑戦し、乗り越えていくヒントを世界に発信し、レガシーとして後世に残していくことが使命」と開催の意義を改めて強調したが、不安は募るばかりだ。