是非もなし…ということか。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長(83)による女性蔑視発言に端を発した後任問題は橋本聖子五輪相(56)の新会長就任でひとまず決着した。一方、約2週間に及んだ一連の騒動の舞台裏では森氏の「側近」と言われたあの人が〝謀反〟を起こしていたことが判明。森氏辞任の流れを決定的にしたというから穏やかではない。様々な権謀術数が渦巻く伏魔殿に足を踏み入れた橋本新会長にとっても〝一寸先は闇〟の状況が続くことになりそうだ。

 様々な候補者の名前が取りざたされた森前会長の後任選びは、最後は五輪7度出場の実績を誇る「五輪の申し子」の橋本氏が新会長に就任することで決着した。一連の騒動の引き金となったのは、森氏の女性蔑視発言。謝罪と発言の撤回で沈静化を図ったものの、世間からの批判は日を追うごとに拡大していった。

 その後に国際オリンピック委員会(IOC)や主要スポンサーなども相次いで非難したことで、最終的に辞任を余儀なくされた。一方で、水面下では森氏退陣の流れを一気に加速させた〝事件〟が起きていたことはあまり知られていない。それは、森氏に絶対的な忠誠心を示し「側近」とまで言われていた日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長(63)による〝謀反〟だった。

 山下氏は森氏の女性蔑視発言の直後に「五輪・パラリンピックの精神に反する不適切な発言だった」と苦言を呈した。一部では森氏の失言を止められなかったことから「擁護した」と批判もされたが、実際には森氏に対して反旗を翻す行動だったという。

 どういうことなのか。いわゆる「森派」と言われる関係者の間には暗黙のルールが存在する。「森氏についてコメントする際は必ず事前報告すべし」という不文律だ。もちろん今回の失言が騒ぎになった時も、森派関係者は形式的に非難しつつも、事前に根回しを行っていた。ところが、山下氏だけは事前に報告していなかったという。つまり〝森ルール〟を破ったのだ。その理由について、ある組織委関係者は次のように打ち明ける。

「森さんの失言に嫌気が差したIOCサイドが、山下さんに『森と距離を置くように』と指示したようです。森さんとIOCのどっちを取るか? 山下さんは腹をくくったんですよ」

 森氏の立場からみれば、自らに忠義を尽くしてきた家臣に裏切られたといったところか。天下を目前にした織田信長が、明智光秀に討たれた〝本能寺の変〟が令和の時代に繰り広げられたことになる。

 もちろん、家臣に寝首をかかれて面白いはずがない。森氏は辞任を表明した12日の会合の席で山下氏が意見を述べる間、森氏はあからさまにそっぽを向いていたという。目も合わさぬ異様な光景を複数の出席者が目撃している。その後に山下氏は組織委の新会長候補に浮上。山下氏自身も、後任に指名された場合には引き受ける意思を固めていたとされており〝天下取り〟をもくろんでいたことになる。

 結果的には〝三日天下〟にすらならなかったわけだが…。その山下氏は橋本氏の新会長就任にあたり「最適の方が選ばれた。私には一つひとつの決断を下していくだけの見識も力量もないと思っていた」と話したが、その心中はいかばかりか。IOCのトーマス・バッハ会長(67)も「素晴らしい五輪の経験があり、最適な人選だ」との談話を発表し、歓迎の意思を示した。

 ちなみに、IOC側の〝意中の人〟は組織委の小谷実可子スポーツディレクター(54)で、橋本氏が候補に浮上した当初は難色を示していたとの情報もある。そのIOCには一度は森氏の失言の終息宣言をして、手のひら返しで非難に回った〝前科〟がある…。

 いずれにせよ、様々な本音と建前が渦巻く五輪の世界でリーダーシップを発揮し、成功に導くのは至難の業。橋本氏とて、いつ足をすくわれるか分からない。橋本新会長の船出が前途多難であることに間違いはなさそうだ。