ただならぬ事態だ。体操界のキングこと五輪2連覇の内村航平(32)と所属先の株式会社リンガーハットとの契約が打ち切りとなり、衝撃が走っている。原因は新型コロナウイルス禍による同社の業績悪化だ。コロナ禍でアスリートが契約解除されるケースは数あれど、内村クラスのトップ選手が契約満了を待たずに終了するのは異例中の異例。これが口火となり、五輪アスリートがさみだれ式に行き場を失う可能性が出てきた。


 苦渋の決断だった。リンガーハットはホームページで「コロナ禍における想定をはるかに上回る業績悪化」を理由に、昨年いっぱいで継続を断念したと発表。一方の内村はSNSで「プロ転向してから今までの4年間サポートしていただき、本当に感謝しています」と敬意を払った上で「現在コロナの状況はとても厳しいですが、引き続き感染対策をしながら体操を頑張ってまいります」とコメントした。

 内村は2017年3月1日にリンガーハットと契約を締結し、体操界初のプロ選手として新たな道を切り開いてきた。契約期間は21年12月までの4年9か月だったが、同社担当者は「コロナ禍で外食産業があまりにもひどくなった。それが全てですね。昨年6月の時点ではこんな話は全くなかったが、11月以降に急きょ…という感じです」と事情を話した。コロナ第3波が始まった昨年11月中旬あたりから、打ち切り交渉が始まったという。

 前述の関係者は「苦渋の相談を持ち掛け、内村さん側が察してくださった」と言い、業績の落ち込みを認識していた内村サイドは「残念ですが、仕方がない」「4年間ありがとうございました」と快諾。交渉は円満に終わったという。

 もともと内村が同社を選んだのは〝男気〟からだった。プロ化する時点で複数企業から条件提示があったが、同関係者は「内村さんはお金じゃない部分で選んでくれた」と話す。金銭的条件で上回る社もあったものの、体操普及のビジョンが合致。何より長崎出身の内村にとって「長崎ちゃんぽん」とは金銭ではなく〝心〟でつながっていたのだが…。

 結果はまさかの契約打ち切りだ。ここに事の重大さが隠されている。コロナ禍は一向に収まる気配がなく、世論調査では7月開幕予定の東京五輪の中止を求める声が大半。アスリートへの風当たりは日増しに強くなっており、スポンサーを失う選手も続出している。

 そんな中で超一流選手の契約終了はまさに〝決定打〟となりかねない。知名度のない選手が金銭的苦境に立たされる流れは加速する一方で、スポンサー企業の社員から「アスリートに支援している場合じゃない」という声が出ても不思議ではないのだ。東京五輪開催が困難な中、アスリートも足もとから崩壊しつつある。スポーツ界はどうなってしまうのか。