あの時、何が起きていたのか――。来日していた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(66)は4日間の日本滞在を通じ、改めて来年夏の東京五輪開催をアピール。なかでも五輪反対派から抗議を受け、その一人に歩み寄ったシーンは大きなインパクトを与えた。バッハ会長は「彼女は叫ぶだけで対話を受け入れなかった」と話したが、本紙は同会長と対峙した40代女性のAさんを緊急直撃。騒動の真相と五輪反対の主張を聞いた。

 騒動が起きたのは16日のこと。バッハ会長は東京都庁を出たところで抗議の横断幕を掲げていた五輪反対派に反応。Aさんに歩み寄って対峙した。同会長はその後に「何が言いたいのかと対話を持ち掛けたが、受け入れてくれなかった。たぶん彼女は対話を求めていなかった。私にマイクを通して叫ぶだけでした」と主張していた。

 だが、本紙がAさんに当時の状況を尋ねると「私は叫んでいないし、対話も拒否していません」と言い、こう説明する。「車に乗ろうとしたバッハさんに『五輪が街を壊し、私たちの暮らしを壊した』と言ったら、2人の警備の制止を振り払って向かってきたんです。すごく感情的で激しい形相でした」

 Aさんは英語で「五輪をやめてほしい」「五輪は終わりだ」「あきらめるべきだ」と伝えたというが、バッハ会長の耳には入らなかったようだ。互いに興奮していたのもあるだろう。改めてAさんに五輪反対の意見を聞くと「今までも五輪はずっとお金儲けを優先してきました。さらに今回はコロナ感染者がこんなに増えているのにやると言っている。五輪の体質が強く露呈されていると思います」と話す。

 Aさんは2013年1月に同志と「反五輪の会」を設立。一貫して五輪の反対を唱えてきたが「スポーツで心を動かされることはあるし、アスリートの努力も否定はしません」と理解を示しつつ「でも今は何百万と言われる人たちが仕事を失っている。それなのに、自分に栄光を与えてくれるステージをつくってくれと人々に訴えるアスリートはどうかと思います。開催するために、人の感情をコントロールするのが五輪の怖いところです」と語る。

 最後にAさんはバッハ会長に改めて「命を優先し、今すぐ五輪を中止してください」とメッセージを送った。五輪開幕まで残り8か月。日増しに強くなる中止論に対し、果たしてIOCはどう出るか。