スポーツと茶道の融合とは――。来夏に延期となった東京五輪まで1年を切ったが、新型コロナウイルス禍で開催できるのか不透明な状況が続く。選手は不安を抱きながらも前を向く中、元ラクロス日本代表で茶道の普及に努める小堀宗翔氏(31)が本紙インタビューに応じた。「アスリート茶会」という活動を通じ、多くの競技関係者と交流してきた女性茶道家はスポーツ界をどう見ているのか。東京五輪代表に決まっているあの“弟子”についても言及した。


 遠州流茶道。江戸時代初期の大名茶人であり、総合芸術家の小堀遠州を流祖とした日本を代表する大名茶道だ。その流派を継承している小堀氏はこれまで2008年北京五輪ソフトボール金メダルに貢献し、東京五輪を目指す上野由岐子(38=ビックカメラ高崎)、12年ロンドン五輪ボクシング金メダルでWBA世界ミドル級王者の村田諒太(34=帝拳)、競泳日本代表、柔道男子日本代表などと「アスリート茶会」を通して交流を続けてきた。昨年7月には、G1クライマックスに臨む新日本プロレスのSANADA(32)にも茶道を手ほどきした。

 小堀氏(以下小堀)きっかけになったのは、私が日本代表として出場した13年ラクロスW杯(カナダ)でした。大会セレモニーで強豪・米国は「USA」と書かれたTシャツを誇らしく着ていて、他の国も民族衣装などを身にまとっていたのですが、私たちは法被に鉢巻き姿。各国代表が文化も背負って戦っている中、「日本はこのスタイルなの?」と違和感を覚えました。念願の大舞台で世界と日本の壁というかギャップを感じていたところ、持参していた茶道セットで海外選手らに抹茶を差し上げたら、初めて日本代表として認識された思いがありました。

 これを機にアスリートに茶道を伝えることになったが、活動を通して、現在は白血病からの復帰を目指す競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)との出会いもあった。

 小堀 競泳日本代表のときはJISS(国立スポーツ科学センター=東京・北区)の会議室に赴きました。うちに来ていただくよりも、少しリラックスした雰囲気がありましたね。池江さんは当時からかわいらしくて、隣の方のお菓子をパクッと口にして「2個目、食べちゃいました」と(笑い)。なんだかすごく親近感がありますし、(白血病からの復帰も)応援したい気持ちがあります。

 そんな茶道とスポーツにはどのような共通点があるのか。

 小堀 茶道には竹の道具を使います。その「竹」ですが、天に向かって真っすぐ伸びながら、風が吹けば揺れ、雨に濡れ、雪が降れば埋もれ、雪が解ければまた真っすぐ伸びて…と環境に応じて縦横無尽に変化するんですね。絶対に折れることなく、それで何か月かの間で節目がある。スポーツ選手も基本的に相手や天候など自分がコントロールできないところに身を置くので、竹のように折れずに環境に柔軟に対応することは大事だと茶道から学びました。

 ただ、こうした活動は東京五輪の前にも予定されていたが、新型コロナウイルス禍というコントロール不能な事態で中止が相次いだ。茶道家、現役ラクロス選手として現状をどう受け止めているのか。

 小堀 五輪に関わる選手は、いつ試合があるか分からず不安で難しい状況だと思います。ですが、実は茶道もゴールがないんですよね。おいしいお茶をたてることがゴールなのですが、ある意味、自己満足や相手の喜びといった見えないところなのでどんどん追求できる。アスリートの方々も一つひとつのことに集中して毎日を重ねていけば、試合が決まったときに迷いなくやるべきことが見つかるのではと思います。

 一方で、東京五輪柔道男子90キロ級代表の向翔一郎(24=ALSOK)とは、昨年から茶道指導を行う間柄。その“弟子”はコロナ禍で活動停止中に、ユーチューブに柔道関係者を中傷する動画を投稿して全日本柔道連盟から厳重注意を受けた。

 小堀 柔道男子代表と茶会を開いたときに(向が)唯一手を挙げて「落ち着きがないけど、どうしたらいいですか」と聞いてきたので「茶道をされたらいかがですか」と返しましたね。最近は(茶道を)やっていなくて、コロナの時期にユーチューブをやっていたということで、実は心配していて…。例の動画も最初はよく分からなかったんですが、報道などで意図を知って衝撃でした。落ち着いたら改めてここで精神統一を? そうですね。していただきたいですね(笑い)。

 五輪を目指す多くのアスリートと交流を続けてきたが、来夏の開催は不透明な状況が続く。

 小堀 どの立場かで意見は変わりますよね。選手目線であればやってほしいでしょうが、一国民としては海外からいろんな方が来られると不安もある。しかし、文化的にはここまで日本のことを伝えられる機会はないですし…。やりたい、やりたくない、やったほうがいいなど一概には答えづらいですよね。

 今となっては非日常のような“日常”はいつ戻ってくるのか。

【ラクロス界に恩返し】小堀氏は新型コロナ禍で停滞しているラクロス界活性化のため、SNSに広告を展開する目的で3月にクラウドファンディングを行った。競技と仕事を両立する関係者らと実施し「1か月で200万円」を目標に設定したところ、50時間で1000万円に到達。1週間ほどで打ち切ったという。小堀氏は「(一石を投じた実感は)ありますね。みんな新しいことに挑戦するのが大好きなんですよ」と充実の表情だ。

 また、ラクロスの将来的な五輪競技入りへ「男女のルール統一に向けて女子が男子寄りになっています。日本はルール変更に伴う柔軟性や新たな戦術の生み出しが得意だと思うので、世界でより上位を狙えるかも。応援したいですね」と期待を寄せた。

☆こぼり・そうしょう 1989年5月12日生まれ。東京都出身。遠州茶道宗家13世家元小堀宗実氏の次女。高校まで剣道に励み、学習院大入学後にラクロスと出会う。卒業後は内弟子として茶の湯の道に進み、競技と両立。2013年W杯では日本代表として出場して9位。ポジションはFW。現在は社会人クラブに在籍し、茶道家として幅広く活動中。プロレス観戦を趣味としている。