【東京五輪】コロナ禍で大逆風「アスナビ」の今 フェンシング鈴木穂波の試練

2020年07月08日 12時00分

フェンシング・鈴木穂波(写真提供:有限会社らんカメラ・芦澤利紀)

 アスリートの“二重苦”を救えるか。新型コロナウイルス禍で1年延期となった東京五輪は開催が危ぶまれ、選手は先行き不透明。その上、就職難や失業に陥る者さえ現れている。日本オリンピック委員会(JOC)による現役アスリートの就職支援制度「アスナビ」も大きな逆風を受けており、来年春の新卒採用もめどが立たない状況だ。そこで本紙はコロナ禍で職を失った女性アスリートと、新たな取り組みを模索するアスナビの実態に迫った。

「もう競技をサポートするのは厳しい」

 今年3月中旬、フェンシング女子エペの鈴木穂波(25)は所属先のブライダル関連会社から衝撃の通告を受けた。コロナ禍で業績が悪化し、5月末で退社を余儀なくされたのだ。呼び出された時点で「良くない話だろう」と予感した鈴木に対し、会社は「競技を諦めて正社員として会社に残る」「競技を続け、退社する」という2つの選択肢を提示。1週間ほど悩んだ鈴木は競技続行を決めた。

「競技をやめた方がいいのかとも考えましたが、まだフェンシングが好きだし、チャレンジしたい気持ちがあった。その思いを会社に伝えました」

 鈴木は2018年4月にアスナビ制度で入社して以来、正社員として給与を得て、競技にかかる全費用をサポートしてもらってきた。現在は所属する鹿児島体育協会から給与をもらっているが、今後は大会遠征代や宿泊費、道具などはすべて自腹だ。「来年春までには就職してお金を生み出さないと」という鈴木は再びアスナビに登録。今回はただ待つだけではなく、並行して20社以上に手紙を書くなど積極的に就活を行っている。

「今までは1社からお給料をもらって支援してもらう形がスタンダードと思っていたけど、コロナでそれが安定とは限らないと感じた。いろいろ考え、勉強しながら、少しずつアクションを起こすようになりました」

 鈴木は東京五輪、その次のパリ五輪を目指し、9日からの合宿に参加する。「退社はショックな出来事でしたが、それ以上に収穫のある時間でした」。コロナ禍をバネに次のステージに向かっている。

 就職難に直面する鈴木の例は氷山の一角だ。メジャー競技のトップ選手なら多数のスポンサーがつくケースが多いが、マイナー競技となると話は別。アスナビ担当者によると、来年春の新卒内定者は現時点でいない。JOCキャリアアカデミー事業ディレクターの中村裕樹氏は「毎年4~6月は企業とアスリートをコミュニケーションさせる大事な期間。それが実現できていないので、先々の結果が良く出ない可能性は高い」と語る。

 アスナビ制度は10年10月にスタート。引退後も視野に入れた就職支援システムとして201企業、316人の採用実績を誇る。だが、コロナ禍によって状況は一変。約25社の企業幹部と6~7人のアスリートが面会する説明会は年15回ほど開催されるが、今年3月以降は行われていない。中村氏はアスナビ登録するアスリートへ「一般学生と同様の就職活動を必ず並行して行うように」と警鐘を鳴らす。その一方で、コロナを教訓にした新たな取り組みも模索中。今後は説明会を従来型の対面式からオンライン形式に切り替え、秋以降に実現できるよう調整しているという。

 世界中を混乱させるコロナだが、制度を成熟させ、意識を向上させるチャンスでもある。その真価が今、スポーツ界に問われている。