ターゲットは国民のハート!? 東京五輪が来夏開催となったことを受けて多くの課題が浮上しているが、会場確保や日程の進捗状況は明らかになっていない。そんな中、アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストで東京都体育協会会長の山本博氏(57=日体大教)が本紙のオンライン取材に応じ、延期開催への胸中を激白。「異業種への配慮」や「ファンタジーな24年プラン」など“中年の星”が思い描くスポーツの祭典とは――。

 ――1年延期を受けて

 山本氏(以下山本):まずは中止の判断も選択肢に入る中、一番に思ったのは中止にならなくてよかったと。

 ――延期の課題については

 山本:大会運営に関して言えば、世界での注目度はサッカーW杯のほうが上かもしれないけど、夏の五輪の問題点は競技数が多くて競技種目が多いこと。これだけの種目数があるから、競技会場を押さえるのがすごく綿密なパズルになってしまう。今までやってきた作業をもう一度、半年くらいでやらないといけない。

 ――影響はスポーツ界にとどまらない

 山本:日本全体のことを考えると、(会場に関しては)ライブ活動を行う多くのアーティスト、ファンの方々が「五輪だから仕方ない」と我慢している。新型コロナで秋は無理でも「来年こそは」となった時に、また五輪が第一優先。また、コミックマーケットやアニメが好きな人たちも影響を受けていて、全員がスポーツ好きなわけではないし、それぞれ個人の趣味がある。そういうことを踏まえると、延期や日程変更について、社会が東京五輪を理解してもらえるのかどうか。

 ――五輪は国民の理解があってこそ成立する

 山本:招致が決まった際に最も心配していたのは、スポーツや五輪の素晴らしさを感じているのは僕であって全部ではないということ。五輪後に半数以上の人が「東京で開催されてよかったね」と言ってくれないと、スポーツに関係する多くの人が社会から非難されてしまう。例えば運動をライフワークにしている人が迷惑を被ったり、都の税金の使い方にクレームが入ったり…。このようなことが起きないように運営してほしいと思っているが、危惧している部分もある。

 ――無観客開催は

 山本:あり得ないだろうね。無観客だったらそもそも日本に招致した意味がない。テレビ、メディアでしか見られないならオーストラリアでやっているのと一緒。時差が(ほとんど)ないし。どうせやるなら僕は観客がちゃんと入って、これまでと同じように東京で開催されてこそだと思う。選手によって初めて出場する人は観客よりも自分が早く出たいと思うかもしれない。でも、一度でも経験している人は観客がいかに五輪にとって重要か、観客も含めて五輪だという感覚を持つと思う。

 ――来年は開催可能とみているか

 山本:いずれにせよ来年できるかできないかは誰も答えを出せないし、やりたいということだけだろう。願望だよね。ただのファンタジー、空想として、僕だったら(2024年五輪開催地の)パリと(同28年開催地の)ロサンゼルスにお願いして4年ずつずらしてもらう。もちろん選手の気持ちは分かる。でも、これだけの大惨事が起きてしまったらアーティストやファン、施設利用者、管理者のこともあるし、トップは東京五輪を24年にして、もう一度日程を組み直すくらいしないと。スポンサーは一回撤退するなり、強化費は政府が考えることになるだろうけど、それくらいやったら、ある意味、みんな気持ちを大きくすべてリセットできるのかなと。

 ――しかし実際の“猶予期間”は1年だ

 山本:リアルな中では1年延期でやるというのは分かっているけど、アフリカとかそういう地域で(新型コロナウイルスの)蔓延が続くようであれば本当に大丈夫なのかなと思う。日本だって順調に普通の生活に戻れたとしても秋か冬。そのころに終息できているのか、コロナ再び…なんてことにはならないのか。現状では1年延期というのは極めて難しい大会運営になってしまうんだろうなと。「1年」という数字がね。

☆やまもと・ひろし=1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年にロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪大会組織委員会顧問会議顧問など多方面で活躍中。