【どうなる?東京五輪パラリンピック】美女クライマーの胸中とは? 新型コロナウイルス感染拡大の影響で来年7月に開催が延期された東京五輪の舞台を「集大成」と位置づけるのがスポーツクライミング女子の野口啓代(30=TEAM au)だ。すでに1年後の代表が内定している野口は金メダル獲得に向けて、この未曽有の事態をどう受け止めたのか。混乱と不安の中で芽生えた希望、自らに課せられた不思議な宿命を本紙に語った。

 3月24日、五輪延期が決定したとき、野口は普段通りにトレーニングしていた。「会見は見ていません。練習が終わった時に聞いて、ビックリしました。明日からのスケジュールを全部、立て直さなきゃいけない。どうしよう…と急に不安な気持ちになりましたね」

 昨年8月の世界選手権で銀メダルを獲得し、五輪出場が内定。正式競技となったスポーツクライミング女子の第一人者として準備を進めてきたが、突然の延期に混乱状態に陥った。その1週間後、来年7月23日開幕の日程が発表され、内定の権利維持も決まった。国際スポーツクライミング連盟の会長から直接、電話で承認の意向を伝えられ「すごく安心し、スッキリした」という。

 再び五輪に向けてスタートするが、感染拡大が続く現状では海外遠征も難しく、さらなる強化は困難な状況だ。もちろん、世界中のアスリートが同じ条件下で準備を整えているが、野口にはこんな強みがある。「私の場合は実家にプライベートジムがある。しばらくは実家に引きこもり、なるべく人と接触しないような環境でトレーニングしたい」

 11歳のとき、家族でグアムに旅行した際にクライミングに出会った。父・健司さん(55)は自宅敷地内にプライベートウオールを自作。世界でたった一つの練習場で腕を磨き“世界の野口”が誕生した。ウイルスの感染拡大で外出もままならない今こそ、父がくれた環境が最大の武器になる。

 五輪を最後に引退を決めたものの、今年に入るとある変化が生まれた。「あと半年、あと4か月と近づくにつれ、残り少ない競技生活がすごく寂しくなり、一生終わらなければいいのにって思うようになった」と吐露。それだけに「私にとって競技を続けられるのはうれしい。もっと強くなれってことでしょうか」とさらにパワーアップを誓う。

 取材の最後、野口は数奇なクライミング人生に思いを巡らせた。「競技生活の中でまさかクライミングが五輪競技になるなんて思わなかった。それが東京で開催され、自分が出ることになった。そしたら今度は延期になって、なかなか辞めさせてくれない。このドラマはまだまだ私を楽しませてくれそうです」

 集大成となる大舞台で最高の結果を残せるか。