【パラヒーローズ】競泳・富田宇宙 延期されたからこそ、さらなる競技力向上を目指す

2020年04月03日 11時00分

笑顔で意気込みを示した富田

【東京2020 パラヒーローズ 見据える先に描く夢とは(9)】難病の苦しみを力に変えて。パラ競泳の富田宇宙(31=日体大大学院/EY Japan)は、自己ベスト更新を目指して奮闘している。新型コロナウイルスの影響で日々状況が変わる苦しい中でも、一心に目標を追いかける金メダル候補に今の胸中を語ってもらった。

「少しホッとした部分もあります」。一時は強行開催も検討されていた東京パラリンピックの延期が決まり、安堵の表情を浮かべた。「事態の終息が最優先なので、今は大会を開催すべきではない。パラリンピックには、多様性や社会的包摂の理解という命題もあるものの、平和と安全が開催の大前提。今の状況ではそれらの命題に目を向けることすらできない」。本来は選手である以上、自分のパフォーマンスのことで頭がいっぱいになりそうなところでも、こんなときだからこそパラリンピック全体のことにも思いを巡らす。

 延期された1年の過ごし方について、富田は2つの軸を掲げた。まずは、競技力の向上だ。「人に見たいと思ってもらえるようなレースをするために、誰も出したことのないようなタイムまで引き上げたい」と厳しい練習に励んでいる。2つ目は人間的な魅力の研さん。「普通では考えられないような経験をして、人間性や考え方を磨くことができるのがパラアスリートの強み。自分ももっと研さんを積みたいし、周りの選手の魅力を伝えたい」と意気込む。それらの積み重ねが「五輪にない、パラリンピックの魅力になっていくはず」と先を見据えている。

 これらの目標の根底には危機感もある。「パラリンピックはまだ『見てもらう』という立場にあるのが実情かなと感じている。大会の経済的自立のためにも多くの人がどうしても『見たい』って思うコンテンツになるように進化する必要がある」と警鐘を鳴らす。

 病気が判明したときは「どう生きていけばいいか分からず、とにかく死にたくて、苦しくて」とどん底まで突き落とされた。しかし、今は「普通に生きているだけじゃ苦しいからこそ、何とかして這い上がってやろうと思える」と苦難をバネに前を向いている。

 自身の座右の銘である「一日一生」を体現する男がパラリンピックの魅力を伝えるため、2021年へ向け、20年を飛躍の足がかりにしてみせる。

 ☆とみた・うちゅう 1989年2月28日生まれ。熊本県出身。3歳から水泳を始めたが、高校2年時に進行性の難病「網膜色素変性症」であることが発覚。高校卒業後に一旦競技から離れたものの、大学卒業後に再開した。昨年のパラ競泳世界選手権(S11)では、400メートル自由形と100メートルバタフライで銀メダルを獲得。現在はEY Japanでパラアスリートとして活動する傍ら、日体大大学院の博士課程でコーチングの研究にも取り組む。168センチ、62キロ。