【どうなる?東京五輪・パラリンピック 緊急連載(1)】嵐の前の静けさか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で史上初の「1年程度延期」が決まった東京五輪。課題は山積みだが、最も混乱が予想された「代表選考」はなぜか平穏な滑り出しをみせている。すでにマラソンや卓球、競泳では代表内定者がそのまま出場権を保持する方向で固まった。これはいったい、何を意味するのか? 緊急連載「どうなる? 東京五輪 パラリンピック」第1回では順調すぎる選考の裏事情に迫るとともに、これから訪れる波乱の要素を探った。

 前例のない「延期」という非常事態となったが、ここまで各競技団体の代表選考で大きな混乱はない。

 日本卓球協会は1月に発表した男女各3人の代表選手を変更しない方針を打ち出し、これに追随するように日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(63)もマラソン代表に内定している男女6選手の出場権を維持すると明言した。「自信をもって選んだ6人。たぶん次の(パリ)五輪で戦えるくらいの若さを持っているし、力が落ちるとかは全く考えていない」

 一方で東京五輪代表選考会を兼ねて4月2日から開催する方針だった競泳の日本選手権は、東京都の小池百合子知事(67)の外出自粛要請を受けて中止となった。昨年の世界選手権個人メドレー2種目で金メダルを獲得し、代表に決まっていた瀬戸大也(25=ANA)の権利についても改めて協議するというが、それまでの方針から出場権は維持されるとみられる。

 当初は延期により、今夏にピークを合わせてきた選手への影響は避けられないとされ、代表選考の見直し論も浮上。しかし予想に反して内定者を優先させる流れとなった。

 あるJOC関係者は「もうみんな混乱はこりごりなんですよ。特に瀬古さんはこれ以上、モメ事を起こしたくない!って気持ちが強く、いち早く明言したんでしょう」と証言する。マラソンの五輪選考と言えば混乱の歴史だ。1992年のバルセロナ五輪で女子の松野明美と有森裕子の選考で大騒動に発展したのは有名。その上、今回は札幌移転、厚底シューズなど“騒動”のオンパレードだけに、瀬古氏の「穏便に…」という心の声が聞こえてきそうだ。

 では今後も「右へ倣え」の展開になるのか? スポーツ仲裁裁判所(CAS)の仲裁人を務める早川吉尚弁護士(51)は「全国民が注目しているので変にモメたくない気持ちはあるでしょう」と前置きし、代表内定者が再選考に異議を唱えることについて「十分あり得ると思います」と話した。

 仮に代表内定者がスポーツ仲裁機構に訴えた場合、早川氏は「個人的には選手側が勝つのは難しいと思う」との見解を示したが「今回は誰も予想しなかった延期。あらかじめつくられた規定がどこにもないからモメる要素はあるんです」と語る。争点は競技団体の選考に関する内部規約だという。

「内定した選手の不満が正当化されるかが争点。例えば『2020年7月から8月に開かれる五輪』という表記の場合、21年8月に開催される大会と同じとは言えない。単純に『五輪』だけなら権利はあると言えます」

 延期しても表記は「東京2020」という先日の発表は、ややこしさに拍車をかけるだろう。また、早川氏は「競技特性によって選手の『1年』の重みは違う。選考方法が一律である必要はない」と言うように、今後は「選考やり直し」を打ち出す競技団体は十分にあり得る。

 実際、柔道男子60キロ級代表の高藤直寿(26=パーク24)はSNSに「一度決まった選手と決めれなかった選手が試合するのはメンタル面でアンフェア」と投稿。瀬古氏がつくった平穏な流れはこのまま続くか、それとも混乱がまた訪れるのか…。(明日に続く)