ついに“山”が動き始めた。新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に深刻化している状況を受け、国際オリンピック委員会(IOC)は22日に行われた臨時理事会で、7月24日開幕の東京五輪の開幕延期を含めて検討することを決めた。他競技の国際大会などが延期される中でも五輪の開催方針だけは不変だったが、各方面からの要請や批判を受けてようやく「通常開催断念」にシフトチェンジ。遅すぎるとも言える今回の決断の裏にあったのはIOCに強い影響力を持つ団体だけでなく、トーマス・バッハ会長(66)の“身内”からの突き上げがあった。

 すでに今月だけで2回目となったIOCの臨時理事会。17日の会合では国際競技連盟(IF)との合同会議で予定通りの開催を再確認していたが、五輪予選の相次ぐ中止や練習環境の悪化、健康面の懸念を理由に各方面から延期を求める声が高まり、再検討を迫られた形となった。今回の臨時理事会で、中止の可能性については「議題になっていない」と改めて否定。「4週間以内に結論を示す」という方針を示した。ロイター通信によれば、大会組織委員会からも「延期する場合のシミュレーション、費用の試算が始まっている」との証言が出たという。

 新型コロナウイルスの大流行という予想外のアクシデントで、IOC以外の団体の行動は早かった。サッカー界はいち早く各国リーグ戦を中断させ、欧州選手権などのビッグイベントの1年延期も早々に決めた。当初は静観していた米スポーツ界もアイスホッケー(NHL)を皮切りにバスケットボール(NBA)がレギュラーシーズンをストップさせ、野球のメジャーリーグ(MLB)も開幕を延期。“外堀”が徐々に埋まっていく中でもIOCは東京五輪の開催について「WHO(世界保健機関)の助言に従う」とするだけ。ドナルド・トランプ米大統領(73)も安倍晋三首相(65)が「近く判断する」とし、最終判断の責任を押し付け合っているような構図さえ浮かび上がっていた。

 そんな中でIOCが「開催延期」に向けてかじを切ったのはなぜなのか。ノルウェーやブラジル、オランダの国内オリンピック委員会(NOC)が延期を要望する声明を発表してきたが、すべては選手、関係者の安全を重要視しているからこそ。米紙「USAトゥデー」(電子版)によると、選手ら300人を対象に行ったアンケートの結果、70%が東京五輪の延期を支持。IOC委員の中からも批判が噴出し始めるなど、もはや誰も通常開催を望んでいない状況になっている。

 一番の“ダメ押し”となったのは、米陸上競技連盟と米水泳連盟による延期要求。この2団体はIOCに強い影響力を持っており、そこにフランス水泳連盟も「延期の選択肢を全力で精査するべきだ」と追随した。国際陸連のセバスチャン・コー会長(63)も「決断は非常に早くに、非常に自明なものとなるだろう。選手の安全を犠牲にしてはならない」と五輪の秋開催に理解を示したことで、IOCとしては決断に向けて花形競技の“足かせ”が外れた格好だ。

 さらにフェンシングでドイツ代表入りを決めているマックス・ハルトゥング(30)が同国のテレビ番組で、予定通りの開催なら「(五輪に)照準を合わせることはできない」と出場辞退を表明。フェンシングの西ドイツ代表として1976年モントリオール五輪に出場したバッハ会長としては“身内”からの悲痛な叫びも、重い腰を上げる要因の一つになったに違いない。

 ウイルス感染拡大が収まらない現状はもちろん、選手たちの準備期間の確保やモチベーションの維持を考えると、決断まで1か月という時間も悠長すぎる気もするが、ようやく動きだしたIOC。今後の展開に注目が集まる。