体操版「Doctor-X」萱和磨“私、失敗しないので”10月世界選手権20演技でノーミス

2019年12月01日 11時00分

“体操の求道者”こと萱がこの手で東京五輪金メダルをつかみ取る

【「令和」に刻む東京五輪 気になる人をインタビュー】誰が呼んだか「失敗しない男」。ミスがつきものの体操競技においてパーフェクトな称号を与えられたのが体操ニッポンの新エース、萱和磨(かや・かずま=23、セントラルスポーツ)だ。10月の世界選手権(ドイツ)では五輪個人総合2連覇の内村航平(30=リンガーハット)を欠いた日本男子の柱として全20演技で失敗ゼロ。超安定ぶりを見せて銅メダル2個を獲得した。本紙連載「『令和』に刻む東京五輪」の今回は、多くを語らず研究と分析を重ねる、ひたむきな“体操の求道者”に迫った。

 ラグビーW杯日本大会では日本代表の稲垣啓太(29=パナソニック)の「笑わない男」が話題となったが、体操界では「失敗しない男」がひそかなブームだ。

 10月の世界選手権で萱は内村以来となる団体予選、決勝、個人総合決勝で全6種目18演技をこなし、種目別あん馬、平行棒の決勝も加えた全20演技で大過失を一度も出さずにフィニッシュ。団体と平行棒でそれぞれ銅メダルを獲得し、日本中が熱狂したラグビーW杯の“真裏”で体操ニッポンのド真ん中に立った。着地するたびに力強いガッツポーズ。普段の寡黙な男とは別人だったが、そこに新エースとしての自覚が隠されている。

 萱:国を背負っている責任感がありましたし、いつもの心構えじゃダメだと思いました。それ(ガッツポーズ)がうまく連鎖し、チームの勢いにつながれば、と。今までは(内村)航平さんに引っ張ってもらっていましたが、今回は航平さんがいない新しいチーム。僕一人では勝てない。みんなを巻き込みたいと思いましたね。

 口で「失敗しない」と言うのは簡単だが、高難度の技に挑戦しながらノーミスを続けるのは容易ではない。「守りに入って縮こまらなかったこと」(萱)が成功の要因で、落下のリスクを覚悟して攻める姿勢を意識したという。さらにはチームの得点状況を把握し、やるべきことをしっかり見極める。演技では気迫を前面に出しながら、日本チームの「頭脳」として冷静に戦況も分析しているのだ。

 萱:昨年から(試合中に)得点状況を見るようになりましたね。キャプテンになり、団体戦でも状況を理解したい気持ちもある。普通に演技をまとめれば勝てる状況なら、自分の能力以上を出すのではなく、最低限の仕事をしてきっちり勝つことも大事。まあ、攻めようが守りに入ろうが、僕は失敗したくないですけど。

 分析は試合中だけではない。萱は自身の練習風景をすべて映像に記録し、約3年分も保存している。練習後に帰宅し、それを見ながら改善点を探る。例えば、つり輪のアザリアン中水平という技。昨年の世界選手権後にロシア式に改良したが、最近は「筋力も落ちていないのになぜかできない」と疑問に感じた。技術に問題があるのでは…と思い立ち、当時の映像をチェックすると体のズレを発見。これで当初の状態に戻り、むしろ精度は上がったという。

 また、つり輪の十字懸垂で静止した数秒後、首をパッと正面に向けるしぐさは日本伝統の歌舞伎の「見得」をモチーフにしており、日本人で実践する選手は多い。ルールに記載されていないため得点には反映されないが、萱はこの動作を高校時代から取り入れている。

 萱:体操って「印象」の世界なので、どれだけ審判にインパクトを与えられるか? 同じ技でも「この選手は違うな」って思わせるのも大事だと思います。見せ方に正解はないので、自分なりに個性を出すようにしています。(演技前の)あいさつもしっかりやりますよ。審判にしっかり合図を送って。採点してもらう立場ですからね。

 リオ五輪は団体メンバーに入れず、補欠として観客席で観戦。表彰台のテッペンに立った日本チームの姿を見て素直に「悔しい」と感じた。時は過ぎ、4月に社会人となった萱は支えてくれた母・恵子さん(51)に初任給で金のブレスレットをプレゼントした。母は試合前に必ず「和磨らしく」と同じ文面のメールをくれる。その腕につけられた輪は「金メダルしか考えていない」という息子の雄姿とともに、東京五輪で光り輝く。

【母・恵子さんから息子へのメッセージ】ブレスレットを「試合の時とかお守り代わりにつけてね」と渡してくれ、すごくうれしかったです! 初任給でのプレゼントだったので、社会人になったんだなとしみじみ思いました。折り紙の指輪をくれた4歳の和磨を懐かしく思い出しました。

 小さいころは泣き虫で気が弱く、すぐにドキドキ。落ち着かないのでおまじないを考えたり、試合の前にはカツやウナギを食べさせたり、神社へ行って気持ちを落ち着かせることをいつも考えていました。だんだんと試合の結果が出るようになって、自分に自信を持って強い心を持てるようになってくれてうれしかったです。

 いつも頑張り過ぎるほど練習しているので、くれぐれもケガだけはしないように頑張ってほしいです。自分を信じ、強い心を持って和磨らしい試合をして、東京五輪につながるように祈っています。体操と出会えて、「オリンピックで金メダルを取る!」という夢を東京五輪でかなえてくれると信じてます。

 和磨、ガンバ!!

☆かや・かずま 1996年11月19日生まれ。千葉県出身。2004年アテネ五輪の体操男子団体金メダル・冨田洋之氏の着地に憧れ、小学2年で体操を始める。習志野高3年の全国高校体操選抜大会で優勝。順天堂大に進学後、世界選手権では15年に種目別あん馬銅、団体金、18年は団体銅、19年は種目別平行棒と団体で銅メダル獲得。16年リオ五輪は補欠だった。163センチ。