怪物ボクサー井上を育てた「5―3―2の法則」

2013年06月14日 11時00分

井上尚弥と父親の真吾さん(左)

【怪物ボクサーの父が激白(1)】“怪物”はこうしてつくられた。日本ライトフライ級1位・井上尚弥(20=大橋)を、父&トレーナーとして二人三脚で支えているのが真吾氏(41)だ。今夏には日本王座に挑戦。早ければ年内にも史上最速での世界取りを目指す「超新星」をいかに育ててきたか。今度の日曜(16日)は「父の日」。“怪物ボクサーの父”が3回にわたってその秘訣と今後を語った。

 アマチュアで高校生初の7冠を達成した長男尚弥。昨年10月にプロデビューした後は3連勝で、現在はライトフライ級の日本ランク1位。8月にも日本タイトルに挑む予定で、さらにその先には国内最速(6戦以内)での世界取りも見据える。

 また、弟の拓真さん(17=綾瀬西高3年)もインターハイで優勝経験のあるアマチュアボクシング界のホープ。真吾氏が将来有望な2人を育てる上で、常に意識したのが次の言葉だった。

「父親は強く、カッコよく。子供にとっての“ヒーロー”であれ」

 小さいころ、父親と一緒に遊ぶと、走る、跳ぶ、投げる、と何をやってもかなわないもの。そんな時、幼心に畏敬の念を抱いた人は多いだろう。真吾氏は体を張って、息子たちに現在もその思いを持ち続けさせるようにしているという。

「尚弥が中学生の時までは、ロードワークも一緒に走っていました。今でもトレーニングは一緒のメニューをやりますよ。さすがにセット数とかは子供たちより少ないですけどね」

 反抗期を迎えるころ、体力の逆転が子供が親を尊敬しなくなる一つの原因。口先だけで指図するようになれば反発するのも当然だが、真吾氏の目線は違った。

「私は常に子供と同じ目線でいるようにしています。いや、もしかしたら子供より低いかな(笑い)。怒る時も、上から目線や感情に任せて、というのは今まで一度もありません。だから、子供たちもなぜ怒られたかが理解できるんです」

 スポーツ界の「親子鷹」というと、スパルタまがいの厳しい指導のイメージがつきまとう。ただ、“怪物ボクサー”を育てた真吾氏の指導には「5―3―2の法則」がある。これはどういうことなのか。

「全体の5割は普通に教えています。あとは3割が褒めて、2割が怒る、という感じですかね」

 褒められれば子供はうれしくなって、自然と「もっとうまくなりたい」という欲が出るようになる。だが、教えられたことをすぐに忘れてしまうのも子供の特徴。そこで真吾氏は「普通」に教える時に、こんな工夫を凝らしている。

「わざと分かりづらい言葉を使うんです。そうすれば教えたことが“右から左”じゃなく、どういう意味か自分で考えるようになるじゃないですか。
(怒る際には)わざと大きい声で『まだできないの?』と言ったりします。そう言われた悔しい気持ちでメンタルも強くなる」。ただし「バカ!」などとののしることはなく「汚い言葉は好きじゃない。その言葉に子供が反発してしまいますから」。

 父親が思春期の井上と微妙なバランスを取り続けたことで、怪物はボクシングの道をそれることなく育っていった。

 (続く)