煮え切らない幕引きだ。日本体操協会は10日、塚原千恵子女子強化本部長(71)と塚原光男副会長(70)がリオ五輪代表の宮川紗江(19=高須クリニック)からパワハラを告発された問題に関する臨時理事会を都内で開いた。報告会見では「パワハラではなかった」との結論が発表され、なんと塚原夫妻の“無罪”が確定。夫妻に科された一時職務停止も解除された。これに対し、内外から「不可解だ」との声が出ている。まさかの“おとがめなし”の裏には、いったい何があったのか。

 事の発端は8月に行われた宮川の記者会見だった。自身に暴力を振るった速見佑斗コーチ(35)が無期限の登録抹消処分を下されたことに関し、同コーチの処分軽減を求めた上で、塚原夫妻から「あのコーチはだめ」などの圧力を受け、パワハラ行為があったと告発。これに対して塚原夫妻は主張の一部を否定したため、協会は9月に第三者委員会を設置。結論が出るまで塚原夫妻を一時職務停止にしていた。

 第三者委は9月10日から11月25日までの間、25人に対するヒアリングを実施し、今月6日に同協会宛てに調査報告書を提出。その中で、宮川と速見コーチを不当に引き離そうとしたとされる行為について「引き離し行為は認められない」と判定。また、7月15日の代表合宿における宮川への塚原夫妻の行為についても「配慮に欠けた不適切な点が多々あったとはいえ、悪性度の高い否定的な評価に値する行為とまでは客観的に評価できない」と結論づけた。

 理事会後に会見した山本宜史専務理事(54)は「(処分を科さなかったことについては)いろんな意見があると思う。パワハラではないけれども、それに準ずるようなことがあった。協会としても改善しないといけない」と語った。

 つまり「不適切な行為」「パワハラに準ずる行為」は認定されたが、社会通念に照らし合わせたら「セーフ」ということだ。

 塚原夫妻は日本中を敵に回したヒールから一転して“無罪放免”に。これにより一時職務停止が解かれ、職務復帰となるが、これに反発する声は少なくない。

 まずはヒアリングに関する疑惑の声だ。関係者の間では「反塚原派の人間や、宮川選手が希望した人には一切、聞き取り調査をしていない」「塚原夫妻は自分たちに不利な判定が出たら、協会を訴えると脅している」などという情報が飛び交っており、“塚原色”の強い弁護士が第三者委を構成しているとの指摘もある。

 一方、第三者委は塚原夫妻が宮川に発したとされる「宗教みたい」という発言は事実と認めたが「私なら速見コーチの100倍教えられる」という言葉は事実無根と認定。さらに協会は第三者委とは別に「特別調査委員会」を今月中に立ち上げて「今回の騒動はなぜ起きたか? 選手が記者会見を開いていいものか?を含めて検証していく」と、反塚原派へのけん制とも見られる措置を取る構えだ。

 塚原夫妻はともに任期が切れる来年で役職を終える意向を示しているとはいえ、不可解な“無罪放免”で再び世間からの風当たりが強まりそうだ。また、宮川サイドもケンカを売った相手が“おとがめなし”になったことで窮地に立たされたのも事実。どちらが勝者かは判然としない中で、体操界に派閥闘争があることが浮き彫りになったことは確かだろう。混乱が収まったとは言い切れず、2020年東京五輪へ不安は残ったままだ。

【パワハラ騒動経緯】2016年リオ五輪女子代表の宮川紗江が8月29日、自身に暴力を振るった速見コーチに日本協会が無期限登録抹消などの処分を下したことについて記者会見。暴力はパワハラと感じていないと説明し、処分の軽減を求めた。
 同時に塚原千恵子女子強化本部長と塚原光男副会長からパワハラを受けていたと告発。「暴力の件を使って、私とコーチを引き離そうとしている」などと主張した。
 塚原夫妻は一部に不適切な言動や落ち度があったことは認めたが、宮川の主張の一部を否定していた。9月10日に協会は第三者委の調査結果を受け、理事会の判断が出るまで塚原夫妻を一時職務停止にすることを決定した。