女子自転車競技界を支えてきた烈女がバンクを去る。「第87回全日本自転車競技選手権大会トラック・レース」は9日、静岡県の伊豆ベロドロームで最終日を行った。女子スプリントで、2012年ロンドン五輪代表の前田佳代乃(27=京都・京都府自転車連盟)が10連覇を達成した。

 レース後、前田の口から飛び出したのは衝撃の引退発表だった。「すみません、今日で引退します…」

 鹿屋体大1年の時からスプリントの女王として君臨。ロンドン五輪に出場するなど、女子自転車競技界の第一人者としての地位は揺らぐことはなかった。だが「私が(石井)寛子さんらから受け継いだバトンを渡す時だ、と。後輩が育ってきたら辞めようと思っていたんです。辞めても(小林)優香と(太田)りゆが必ずやってくれる」。時折、声を詰まらせながら、引退を表明した。

 何度も、ガールズケイリンの選手になり、自転車競技と両立させることを周囲から求められていた。しかし、自らの力で競技を続けることにこだわった。「ガールズケイリンの選手じゃないと五輪に出られないのは面白くない。自分でスポンサーを集めて、そういう活動ができるというひとつの選択肢をつくれたかな」。ひと息つくと、自ら「選手としてやることはやれたと思う」と胸を張った。

 引退の引き金になったのはアジア大会。結果を残せず「このまま東京五輪を目指しても、出られたとしてもメダルを取ることはできない」の思いが競技者としての最後を決めさせた。今後は「しばらくゆっくりして、指導者としての道を模索していきたい」。

 前田佳代乃として歩んできたからこそ、後進に伝えられることがある。第2の人生で、より大きな花を咲かせるだろう。