体操女子でリオデジャネイロ五輪代表の宮川紗江(18)が、日本体操協会の塚原光男副会長(70)と妻の塚原千恵子女子強化本部長(71)からパワハラを受けていたと告発した件は、全面抗争の様相を呈してきた。日本協会は30日、今回の告発を受けて都内で緊急の対策会議を開き、第三者委員会を設置して調査することを決定。一方、塚原副会長は「全部ウソ」と言い切り、千恵子氏もパワハラ行為を全面否定した。真相解明の道が見えてこない中で、千恵子氏が潔白を証明するためにキナ臭い動きを見せていたという。

 午後3時から始まった臨時会議は2時間40分にわたって行われた。終了後に協会は取材対応し、騒動を謝罪。前日にはパワハラ問題について「書面または面談で訴えがあれば」(山本宜史専務理事)とまるで人ごとだったが、ガラリと態度を一変させ、第三者委に調査を委ねる姿勢を示した。第三者委は外部の弁護士を含む3人程度で構成され、世界選手権(カタール・ドーハ)が始まる10月末までの決着を目指すという。

 具志堅幸司副会長(61)は協会が調査せず、第三者委に委ねた理由を「協会の人間にヒアリングすることは偏った調査になる。それだったら第三者に委ね、公平、公正な判断を仰ぐ」とした。速見佑斗コーチ(34)に無期限登録抹消などの処分を科した際は、協会の調査に加え、2度の懲罰委員会を経て常務理事会で決議。迅速かつ念入りに段階を踏んで下した判断だったことを思えば、今回のパワハラ問題では第三者委に“丸投げ”した感もある。

 ただ、これも塚原夫妻の力が強すぎるがゆえに、協会幹部でもそうせざるを得ない状況にあるという見方もできる。パワハラ行為そのものについても具志堅副会長は「初めて知りました」と寝耳に水の反応。肩書や立場は同じとはいえ、塚原副会長は日体大の大先輩。塚原夫妻に対しては“調査しないのではなく、できない”という雰囲気も漂う。具志堅会長が会見で第三者委の人選について問われた際、体操協会とは無関係の人にする意向を重ねて強調したのも、そんな疑念を深める材料だ。

 宮川サイドも不信感を増幅させている。前日の協会の会見を受け、書類などで改めてパワハラを訴えることを準備していた。しかし、塚原副会長が「全部ウソ」と宮川の発言を全否定。再度の高圧的な発言は衝撃で、宮川の代理人を務める山口政貴弁護士は本紙の取材に「18歳の女の子が選手生命を懸けて大勢の前で言った。それを『全部ウソ』。常識的にない」と猛反発した。さらに「宮川選手としては(書類での申し入れを)やりたいと考えております。ただ、正しい調査がなされるかどうかは非常に疑問」と協会への塚原副会長の影響力を危惧している。

 そんな中、関係者が千恵子氏の不穏な動きをキャッチしていたことがわかった。今回、宮川の告発のポイントの一つとなっているのが、千恵子氏が女子監督を務める「朝日生命体操クラブ」へ移籍を誘導していたということ。これについて千恵子氏は、所属選手を使って自身を擁護するような“潔白証明会見”を開こうとしていたという。結局は協会側に阻止されたもようだが、担当コーチを排除して選手を引き抜く手法の正当性を訴えようとしているのは、明らかに常識から外れていると言わざるを得ない。

 具志堅副会長は塚原副会長が宮川を“ウソつき”呼ばわりしたことについて「体操関係者として非常に残念な言葉。18歳の少女がウソをつくとは思えない」と話し「この際、全部ウミを出して新しく出発しないと東京五輪はあり得ない」と言い切った。その“ウミ”が何を指すのかは言わずもがな。協会の本気度が試される時がきている。