【バドミントン】桃田賢斗“奇跡のV字回復”の裏側

2018年08月07日 11時00分

優勝した桃田(AP)

【中国・南京5日発】どん底からの復活には何があったのか。バドミントンの世界選手権男子シングルス決勝で桃田賢斗(23=NTT東日本)が世界ランキング3位で中国のエース、石宇奇(22)を2―0(21―11、21―13)のストレートで撃破し、日本男子初の優勝を果たした。2016年4月に闇カジノ店への出入りが発覚し、無期限出場停止処分を受けた。リオ五輪出場を棒に振った男は所属の支援も受け、過去のやんちゃな自分と完全に決別。“奇跡のV字回復”の裏側を追った。 

 涙はなかった。完全アウェーの雰囲気で完勝だった。ディフェンスとネット際の攻防で圧倒し、勝負どころでスマッシュを決める。世界一を決める試合で、世界3位を横綱相撲で翻弄した。「しっかりと足を動かし、相手の決め球を取ったことが相手のプレッシャーになった」。桃田は静かに余韻に浸った。

 2年前は暗闇の中でもがいた。違法賭博問題で世間を騒がせ、金メダル候補だったリオ五輪の出場を棒に振った。それでも支援してくれる所属のサポートを受け、数々の社会奉仕活動を経て裸一貫で再出発した。

 その過程の中で、日本のエースは生まれ変わった。昨年5月に処分が解け、バドミントンができる喜びを日々かみ締めながら新たな階段を上り始めた。1月には代表に復帰。元の場所に戻ったが、言動には慎重さが加わっていた。

 大金をつかんでも、浮かれることはなかった。賭博問題発覚前、1000万円近い賞金を得た桃田が「豪遊したい」と話したのは有名。しかし、復帰後は同様の賞金を手にすると「貯金します」と冷静に答えた。誤解を招きかねない発言は自ら封印した。

 さらに、環境の変化が大きなプラスになったという。所属の活動拠点が4月、千葉の市川市から東京・調布市に移転した。練習場や寮は大学並みの敷地面積を持つ施設内にあり、出入りも簡単ではない“城”だった。

「セキュリティーが厳しくなった。サクッと入れるようなところじゃない。なかなか遊びにはいけないんじゃないか。あのへん、遊ぶところもないでしょう」(関係者)。仮に“悪い虫”が目を覚ましても、どうにもならない環境。世界選手権前もツアーの合間を縫って早々に帰国して練習を積むなど、バドミントンだけに集中できた。

 スポーツ界では日本ボクシング連盟の不正問題や日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題など、競技を揺るがす騒動が相次いでいる。五輪という最大の祭典が控えていても、いつ何時、スキャンダルに巻き込まれないとも限らない。危機管理能力の有無が個々の選手にも問われているが、桃田はその重みを誰よりも知る。世界最強を証明した男は、コート外でも死角は見当たらない。

“V字回復”を果たした桃田自身も「世界ランキング2位になった時よりバドミントンを楽しめているし、今の自分のほうが強いと思う。このまま感謝の気持ちを忘れずにプレーできればもっともっと(ランキングは)上がってくる」と手応えは感じている様子だ。

 日本中から非難を浴びた不祥事を消すことはできないものの、過ちは二度と犯さないと決めている。「この優勝は一人ではできない。感謝の気持ちが勝因」。恩返しはまだ道半ば。今後も圧倒的なプレーで観客を魅了しつつ、2年後の東京五輪で表彰台の頂点を狙う。

☆ももた・けんと=1994年9月1日生まれ。香川県出身。福島・富岡高出。2012年世界ジュニア選手権王者。15年世界選手権3位で、男子シングルスの日本勢で史上初の表彰台。16年4月に発覚した違法賭博問題による出場停止処分で、リオ五輪に出られなかった。今年1月に日本代表復帰。175センチ、68キロ。