名古屋から世界へ! 畑中清詞、薬師寺保栄と2人の世界チャンピオンを輩出した名門・松田ジム(名古屋市熱田区金山町)から新たなスーパースターが生まれようとしている。水野拓哉、23歳。昨年から新設された日本スーパーバンタム級ユース王者で、7月29日に3回目の防衛戦に臨む。ベルトを巻いてから着実に実績を積み重ねており、その先に見据えるのは名古屋が誇る世界チャンプだ。

 防衛戦を約2か月後に控え、スパーリングにも熱がこもる。実戦形式で6ラウンドをこなした後は息も絶え絶え。それでも、快汗を拭いながらリングを降りれば常に笑みが絶えない。これがこの男の一番の魅力でもある。

 練習を終えたばかりのキッズボクサーが「ありがとうございました~」とあいさつに訪れれば、軽く“ジャブ”を見舞って反応を見るのが楽しみのひとつでもある。

「今日は僕のパンチをかわせるかどうか。それでチビっ子の調子が分かるんですよ(笑い)。練習はキツいけど、楽しくやらんとね」

 開設75年の老舗。リングの周辺は決して殺伐としたものではなく、強く楽しくカッコよく、との心意気が伝わってくる。ジムの松田鉱二会長やマネジャー、コーチだけでなく、練習生のキッズボクサーも大切な戦う仲間でもある。

「自分で言うのもなんですけど、環境にはメチャクチャ恵まれてるんですよね。運と縁。この2つを大切にしてここまできたし、自分はとことん幸せものだと思いますよ」

 プロボクサーとはいえ、それだけで食べていける選手はほんの一握り。水野のスポンサーには世界の山ちゃんなど名古屋を代表する企業が名を連ねている。

 ここまでの通算成績は16戦14勝。そのうち12回はKO勝ちだ。水野の試合には熱狂的な女性ファンも多い。モデル風の美女から淑女、ヤンチャなオバちゃんまで。打ち合い上等のファイティングスタイルには髪を振り乱しながら我を忘れて声を張り上げるだけの不思議な魅力がある。

「ぜひ、会場にいらして雰囲気を感じて興奮してほしいですね。とにかくおもしろい試合をお見せしますよ。KO率は高いはずだし、次も絶対倒して勝ちますから」

 水野の心中には常に幸運とご縁が交錯している。6月には練習直後でフラフラのところ、知人と同席していた河村たかし名古屋市長とばったり遭遇し、応援団員を快諾してくれたという。

「この世界は頑張ったから報われるものではないけど、報われるまでひたすら頑張ればいいこともあると思う。僕はとにかく名古屋が好き。名古屋から世界チャンピオンが出たら最高ですよね」

 生まれも育ちも生粋の名古屋人。地元の誇りがハードパンチの原動力にもなっている。

 お笑いマニアの水野には世界チャンピオンの先にさらなる野望もある。「志村けんさんの番組が大好き。昔の『8時だョ!全員集合』とかおもしろいですよね。それにバカ殿も大好き。世界チャンピオンになったら出演させてもらえるようお願いするつもりです」。名古屋から生まれた史上初の“バカ殿チャンプ”を目指し、パンチとともにリング外でのトークにも磨きをかけている。

☆みずの・たくや=1995年6月8日生まれ。愛知県名古屋市出身の23歳。名古屋工業高校卒業。松田ジム所属。中学3年からボクシングを始め、2017年8月に日本スーパーバンタム級ユース王座を獲得。通算成績は16戦14勝(12KO)1敗、1分け。好きな女性タレントは上戸彩、深田恭子。身長170センチ。血液型=A。