【前園連載15】「マイアミの奇跡」はこうして起きた

2014年05月05日 11時50分

スタッフと選手が一丸になりブラジルから大金星(左から西野監督、伊東)
前園真聖「流浪の天才ドリブラー」(15)

 1996年7月、いよいよアトランタ五輪が開幕した。日本は1次リーグでブラジル、ナイジェリア、ハンガリーと同組となった。しかも初戦の相手はブラジル。悲願の五輪金メダルを獲得するため本気モードだ。当時のブラジルはロベルト・カルロス、ジュニーニョ、サビオといった23歳以下の選手に加え、オーバーエージ(OA)3枠を活用し、ベベトにリバウド、「怪物」と言われたロナウドらが選出され、まさにスター軍団だった。

 この大会前に、スタッフがブラジルの特徴をまとめた映像を作ってくれたけど、もう規格外だったね。ビデオを3倍速で見ているような印象で、実力差は明白。自分でも「勝ち目ないな」と思ったね。後でスタッフに聞いたら選手が自信を失わないよう、ブラジルのスーパーなプレーシーンを排除し、かなり“弱め”にしていたそうなんだ。

 それでも西野朗監督を始めとするスタッフは、なんとか選手のモチベーションを上げようと「勝機はある」と言い続けてくれたし「ブラジルはDFとGKの連係にミスが多い。そこを狙っていこう」と指示した。試合前の練習でもDFの裏にボールを出す練習を徹底したけど、逆に言えばブラジル唯一の弱点にすがるしか方法はなかったんだろうね。

 万全の準備を整えて試合に臨むと、予想通り防戦一方。私も守備に翻弄されたが、GK川口能活(現磐田)が神がかり的なファインセーブを連発した。能活が絶好調な試合では、過去にも劣勢な展開でも勝利を収めていたので「ひょっとしたら…」という予感もあったんだ。

 なんとか前半を0—0で折り返すと、ブラジルは後半は本気になったのかロナウドまで投入。これには「ブラジルも焦ってるな…」と感じたね。その直後の後半27分。日本は自陣でパスを受けた私がMF路木にボールを送ると、作戦通りに相手DFの裏へロングフィード。前線でFW城がゴール前に走り込むと、相手DFとボールをキャッチしようとしたGKが激突。こぼれたボールをMF伊東輝悦(現甲府)が押し込んだ。本来なら私が走り込まないといけない場面。伊東がゴール前にいたことには驚いたけど、まさか先制点が取れるとは…。

 その後は「ホイッスルはまだか」とばかり考えていた。本当に時間が進むのが遅く感じていたんだ。ブラジルの怒とうの攻撃は続くなか、川口が好セーブを連発し、ピンチを防ぐと、ついにホイッスル。ちょうど1年前にA代表が5失点で敗れたブラジルを相手に勝てた…。スタッフと選手が一丸になって取り組んだ結果だ。

 でも宿舎に戻って冷静になって試合を振り返ると、世界トップとの差を痛感し、大金星の高揚感も薄れてきた。世界一流選手の実力を体感したし、まだ足りないものがある、と改めて胸に刻んだ。「大会は始まったばかり」と気を引き締め直した。