あの“ドン”退治を指南――。小池百合子都知事(64)による“小池劇場”の仕掛け人ともいわれるのが作家の猪瀬直樹元都知事(70)だ。20日に「東京の敵」(角川新書)を上梓し、“都議会のドン”こと自民党東京都連の内田茂前幹事長(77)と“五輪のドン”こと東京五輪大会組織委員会の森喜朗会長(79)の2人を“東京のガン”とし闇を暴いている。ダブル・ドンを退治するシナリオはあるのか? 猪瀬氏が緊急提言だ。

 ――昨年の都知事選で猪瀬氏は小池氏を後方支援した

 猪瀬 自民党都連が各級議員に対し、親族を含めて、非推薦候補を応援したら、除名するという北朝鮮の独裁体制と見まがうような内部文書や、6年前に内田氏によって結果的に自殺に追い込まれた樺山卓司都議(享年63)の遺書などをSNSやニュースサイトで公開した。ドンの存在が一躍、注目された。

 ――猪瀬氏と内田氏の因縁は?

 猪瀬 2007年に副知事に就任後、千代田区で参院議員宿舎の建設計画をストップさせた。内田氏の地盤ですが、当時はドンなんて知らない。いきなり計画をおじゃんにさせたから内田氏はメンツを潰され、利権も絡んでくる話だったろうから、烈火のごとく怒ったというのが最初の衝突。

 ――猪瀬氏が都知事に就任し、内田氏と折り合いはついたかに見えたが

 猪瀬 立候補するとなり、ポスター張りを自民党都連にお願いしたら、送り返された。都連からは立候補を反対され、選挙の時に協力してもらえなかった。党本部は反対していないから、その意味でも小池氏の都知事選と似た構図でした。

 ――千代田区長選(29日告示、2月5日投開票)は現職の石川雅己区長(75)を小池氏が支持し、内田氏は与謝野馨元官房長官(78)のおいの信氏(41)を擁立し、代理戦争となる

 猪瀬 石川区長はもともと内田氏が連れてきたが、だんだん言うことを聞かなくなった。怒った内田氏が4年前の区長選で、同じ年齢の71歳の副区長を擁立し、ぶつけた。当時、僕は石川区長を応援して、内田氏をやっつけたが、今度は与謝野氏のおいを引っ張ってきたのには驚いた。内田氏は民主党政権で大臣になった与謝野馨氏と仲良くなかったが、与謝野氏も「地盤・看板」を残したい。内田氏はその弱みにつけこんだ。信氏は今回、敗れても次の衆院選で公認候補に推挙するという約束をもらったのではないか。

 ――石川区長には多選批判もあり、信氏と接戦も予想されている

 猪瀬 注目を浴びる今回の選挙は、信氏が“ドンのかいらい”と皆が気づくんじゃないかな。舛添要一氏(68)のような、ドンの言いなりになるような人はもう御免となる。

 ――もう一人のドン、森氏は猪瀬氏の組織委会長就任をブロックしていた

 猪瀬 JOCの竹田恒和会長(69)との間で、コストに厳しいトヨタ自動車の張富士夫名誉会長(79)を会長に推挙しようとした。さらに外資系金融の方に財務を担当してもらい、厳しく民間の目でチェックしてもらおうとしたが、結果として、僕が辞めるドタバタの中で、森氏が会長になってしまった。

 ――小池氏と森氏のバトルが続いている

 猪瀬 組織委の問題は、本来、国からいくら引き出し、説明するのが会長の森氏と武藤敏郎事務総長(73)の役割。ハッカー対策やテロ対策、宿泊施設等、課題は山積している。ガバナンスやリーダーシップの欠如、説明責任を果たしていない森氏で務まるのか。小池氏は森氏を辞めさせたいが、まずは都議会のドンを退治しないと次のドンには進まない。

 ――その意味でも千代田区長選、夏の都議選は小池氏の正念場となる

 猪瀬 都議選で小池氏の勢力が過半数を制さないと、次の選挙は4年後で、ドンの勝ち。千代田区長選でドンのかいらいを返り討ちにして、都議選でドン本人を追い払う。小池塾には、大学教授や上場企業の役員とかかなりいいタマがいて、第1党を取る力はあるが、内田氏もしたたかで、まだまだ油断できない。自民党都連の中でも反内田派はたくさんいる。今はおっかないから黙っているが、ドンが力を失えば、雪崩を打って、小池氏の方になびいてくる。もっとも小池氏自身が今後、何をやるか、問われるのはそこから先のことです。


 ☆いのせ・なおき=1946年長野県生まれ。87年に「ミカドの肖像」で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。小泉政権時の2002年に道路民営化推進委員に就任。07年から東京都副知事に就任し、石原都政を支え、12年に都知事選史上最多の得票で当選するも1年後に辞任。一般財団法人「日本文明研究所」所長。大阪府・大阪市特別顧問。近著に「戦争・天皇・国家 近代化150年を問いなおす」(角川新書)、「民警」(扶桑社)。