小池百合子東京都知事(64)と“都議会のドン”こと自民党東京都連の内田茂前幹事長(77)の“代理戦争”ともいわれる千代田区長選(29日告示、2月5日投開票)がゴング前からヒートアップしている。自民党都連推薦で立候補する与謝野馨元財務相(78)のおいっ子である与謝野信(まこと)氏(41=無所属)が13日、出馬会見を開いた。小池陣営が恐れるドンの戦略は?

 この日、晴れてお披露目となった与謝野氏は、歌人の鉄幹・晶子のひ孫で、父親が千代田区を地盤にした与謝野馨氏の弟という超サラブレッド。東大中退後、ケンブリッジ大を卒業し外資系金融会社に務める傍ら、自民党政経塾生として政界進出の機会をうかがってきた。

 与謝野氏の登場で、ライバル意識をむき出しにしたのが小池氏だ。小池氏は5期目の再選を狙う石川雅己現区長(75)の支援を表明し、同日の定例記者会見でも「石川氏は待機児童問題に熱心に取り組み、路上喫煙禁止条例を日本で初めて制定するなど実績があるので大変期待している」と持ち上げてみせた。

 一方で、内田氏の後ろ盾を得て出馬する与謝野氏については「与謝野先生(馨氏)のおいごさんということで、とても自民党的な選び方。猛烈な組織選挙をされるんだろうが、あくまで(首長は)区民が決めること」とチクリ。さらに「与謝野さんって最後は何党でしたっけ。甘党?」と晩年、与謝野馨氏が自民党を離党し、たちあがれ日本、無所属で菅政権の閣僚と渡り歩いたのを皮肉って、対決姿勢をあらわにした。

 だが、当の与謝野氏は「誰かの代理で戦争するつもりはない。そもそも“戦争反対”です」とどこ吹く風。さすがは「君死にたまふことなかれ」と日露戦争に反対する詩をうたった晶子の血筋で、一つひとつの所作も歌人のたたずまいすら感じさせる。

 さらに区政の問題点について聞かれても「石川区長は16年間で素晴らしい実績をお持ち。いくら選挙でも相手陣営の悪口を言わず、フェアプレーを心がけたい」とどこまでもおっとり。小池知事についても「素晴らしい実績がありご立派な方。雲の上の存在」と褒めちぎった。

 与謝野氏を担ぎ上げたのはもちろん内田氏だが、“負け戦”にするはずがない。千代田区は有権者が5万人もなく、4年前の区長選では石川氏と次点候補の得票差は1264しかなかった。

 都政関係者は「2009年の都議選で内田氏は、民主党が立てた26歳のイケメン(栗下善行氏)に176票差で敗れた苦い過去がある。石川氏は75歳で16年も区長のイスに座り、長過ぎるとの批判にさらされているのに対し、フレッシュな与謝野氏は、おじから続く“与謝野ブランド”で自民党の旧来の支持層、さらにタワマン族を中心とした若い世代からの支持を集められると内田氏は計算している。自らの失敗から学んだ逆襲ともいえる」と指摘する。

 小池陣営もこの不利な状況とデータはもちろん把握している。当初は対立候補も立てられずに余裕しゃくしゃくだったが、与謝野氏の登場で急転、ピリピリムードに突入しているワケだ。

 与謝野氏は自身の強みを聞かれて「民間を経験しているので現役世代の区民目線を反映させられる」と胸を張った。この日の会見では、後ろ盾となる内田氏の姿は見られなかった。報道陣から「内田氏の存在を隠そうとしているのでは?」と突っ込まれたが、「本日は選対の主要メンバーが同席しているのであって誰かを隠しているわけではない。内田氏からは『政治は一人ではできない』と千代田区政に対する熱い思いを聞いてきた」とさらりと流してみせた。

 小池氏は選挙期間中、時間があれば、石川氏の街頭演説で応援に繰り出す。与謝野陣営への舌鋒を鋭くさせ、再び内田氏らを敵に回しての“小池劇場”へ持ち込みたい狙いだが、内田氏は対立路線を封印し、ひたすら与謝野氏のフレッシュさを押し出す構え。さながら“静”と“動”の対決ともなってきた都政の代理戦争。小池陣営が大きくリードしていた情勢だったが、勝負の行方は混沌としてきた。