安倍晋三首相(61)は4日、衆院本会議での外交報告で、昨年12月の従軍慰安婦問題での日韓合意について「最終的かつ不可逆的に解決されることになった。日韓関係が未来志向の新時代に入ることを確認した」と強調した。韓国の朴槿恵大統領(63)は同日、大統領府で、日韓合意を念頭に「新しい韓日関係の構築に向けた進展を成し遂げた」と述べ、反対も根強い政治決断に理解を求めた。だが今後、韓国の野党や民間団体が続々と反対の意思を表明するとみられ、朴槿恵大統領にとってはまるで生き地獄のような日々が始まる。

 韓国の民意は反対が根強い。6日には米ニューヨークの日本総領事館前などで抗議集会が開かれるという。

 韓国最大野党「共に民主党」の文在寅代表は4日、国会で開いた党の会議で「日本政府が法的責任を認めないまま、(日本が拠出する)10億円で人権犯罪に免罪符を与えることはできない」と述べ、合意は無効とあらためて主張した。

 日本大使館前にある慰安婦少女像の撤去に関しては、像を設置した「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」と元慰安婦の支援施設「ナヌムの家」の元慰安婦が「認めることができない」と声明を出した。

 これに呼応した大学生らのグループが日本大使館が入居するビルに入り、プラカードを掲げるなどの抗議活動を行い警備員に排除されている。早晩、大規模な反朴槿恵デモも起こりそうだ。

 元公安調査庁第2部長・菅沼光弘氏の著書「ヤクザと妓生が作った大韓民国」のインタビュー・構成を担当した但馬オサム氏はこう語る。

「経済的に死に体の韓国にとって、最終的に頼れるのは日本しかない。その日本との関係を修復するには、慰安婦問題の決着しかなく、10億円で手打ちした格好になった朴槿恵にとって、これはむしろ成果と呼んでいいでしょう。しかし、韓国国内の評価は『10億円でハルモニたちの恨みを売り飛ばした親日派(=売国奴)大統領』です」

 これを見て思い浮かぶのは、朴槿恵大統領の父であり、日韓基本条約締結の立役者の朴正熙元大統領のことだろう。

「日本に有償無償その他の経済支援8億ドルを約束させたその手腕はなかなかのもので、これによってアジア最貧国であった韓国が救われたのはいうまでもありません。つまり、日韓基本条約締結は韓国の外交的勝利といえるものです」と但馬氏。

 当時もまた、韓国国内では大がかりな日韓基本条約締結反対デモが起こった。デモの第1の理由は「賠償金でなく経済支援という名目だった」ことだ。

 だが日本は韓国と戦争をしていないため、賠償金は生じない。ゆえに経済支援金という名目は日韓の擦り合わせによる苦肉の策だったのだ。

「今回、挺対協側が、合意声明にある『責任』が『道義的責任』であって、日本が『法的責任』を認めているわけではない、ということに憤慨しているのですが、実に50年前の日韓協定の反政府デモと状況が酷似しています。朴槿恵としては、父の時代の日韓協定まで蒸し返され、父娘ともに親日派(売国奴)と騒がれることを一番恐れているでしょう」(同)

 実は、慰安婦問題で手打ちできるタイミングはこれまでにも何度かあったという。

 但馬氏は「そのつど、韓国政府は挺対協や世論に迎合し、あるいは政権維持のための反日アドバルーンにこれを利用してきました。その間、慰安婦強制連行のイメージは韓国国民の間で肥大化し、神話化してしまったのです。そして、あの慰安婦少女像は聖像(イコン)であり、信仰の対象ですらあるのです。当然、この信仰物(慰安婦像)を排除することには、激しい抵抗運動が起こるでしょう」と言う。

 しかし安倍首相には「大使館前の少女像を撤去することが10億円支払いの前提条件だ」との意向が強く、あとには引かない構え。

 3月の米国を事実上の立会人とした合意文書の作成までに、朴大統領は少女像移転を含め、国内の説得に努めると約束しているが、ただでさえ人気のない朴槿恵大統領にとって生きた心地のしない“地獄の日々”が待っている。