国王自ら出撃!? ロイター通信によると、ヨルダン治安当局者は5日、同国軍がシリアで過激派「イスラム国」への空爆を行ったと述べた。軍パイロットを殺害されたことに対する報復とみられる。ヨルダンではアブドラ国王(53)が自ら戦闘機を操縦し、空爆に参加するという情報も駆けめぐっている。国民のイスラム国に対する報復感情はすさまじく、国王がその期待に応える格好だ。とはいえ、そう簡単なことではない。万が一、人質にでもなろうものならパイロット以上の問題化は必至。国王出撃の狙いとは――。

 国王出撃情報は“ヒゲの隊長”こと自民党の佐藤正久参院議員(54)がツイッターで現地報道を拡散し、広まった。

「複数のソースが、アブドラ国王がISIL(イスラム国)の空爆に参加するとの報道。元々、アブドラ国王はヨルダン軍の特殊部隊のコマンダーの経験もあり、攻撃ヘリのパイロットでもある」

 佐藤氏が5日午前にツイートすると「暴れん坊将軍みたいですね」「やはり王様って言うのは腕っ節の強い人がなるものですね」「さすがにそれはお止めくださいとしか…」などとコメントが殺到した。日本時間4日に殺害が明らかになったヨルダン軍パイロット、ムアーズ・カサスベ中尉(26)が昨年末にイスラム国に拘束された後、ヨルダンは空爆を中断していたとされる。中尉殺害への報復として再開させた形。それだけに国王の“参戦”が注目される。

 佐藤氏を直撃すると「イラクニュースなど複数の報道で知りました。国王が空爆に参加する事情は分かりません。ただ、倍以上の報復をしないとヨルダン国民の怒りは収まらないのではないか。(パイロット殺害映像公開時に訪問していた)米国で国王は覚悟を述べていた。ユニークな人でA310(王室政府公用機)を自分で運転(操縦)するそうです」と明かした。

 アブドラ国王はイスラム教の預言者ムハンマドの血筋、ハーシム家の生まれ。飛行機の操縦だけでなく、車も自分で運転し、外国からの要人の送り迎えをしたこともあるという。「老人に変装して極秘視察を行ったがバレた」と海外メディアに報じられたことも。まさに“暴れん坊王様”だ。

 陸軍所属歴もあり、現在は最高司令官に就いている。英国留学中にサンドハースト英陸軍士官学校を卒業した生粋の軍人だ。カサスベ中尉殺害に対する国民の怒りを受けて自ら出撃とみられるが、果たして本気なのか。

 軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「昔、F―5に乗っていた写真を見た記憶があるが、もともとは戦闘機のパイロットではない。今、国王が戦闘機に乗るというのはパフォーマンスでしょう」と指摘。

 ヨルダンは立憲君主制で国王が世襲で統治している。国内ではパイロットを救出できなかった失望感が広がっており、怒りが王室に向かいかねない状況だという。

「国王自ら戦闘機に乗り込むところや、上空に飛び立つところ、また、帰ってくるところなどの映像を国内に流せば、国民は国王に大喝采をおくるでしょう。それにより怒りがヨルダン王制に向かわないようにしたい。ほとんどの国民は国営放送を見るので、パフォーマンスの効果は絶大です」(神浦氏)

 ヨルダンの人口は600万~700万人。その7割がパレスチナ難民系と言われる。

「国王の父親がすごいやり手で、有力な部族らを力で抑え込んでいた。今の国王は2代目だからナメられている。英国に行っていた時期もあり(国内の有力者らに)気を使わないといけない面もある」(同)。出撃説の背景には、アブドラ国王が抱える国内情勢の問題もある。

 パフォーマンスとはいえ、実際に出撃となれば危険はないのか。万が一にも人質になれば、それこそ一大事で“戦争”になりかねない。

「人質になることはあり得ない。いざ空爆となったら米軍機などが護衛について守り、対空機関砲が届かないようにするなど徹底します」(同)

 行って帰ってくるというパフォーマンスが、ヨルダン王制維持のために必要なのだ。

 前出の佐藤氏が「国王の夫人と娘さんが美人と評判です」と指摘するように、ヨルダン王家は日本でも注目されている。ラニア夫人(44)とイマーン王女(18)は来日したこともあり、美貌で知られる。国王の決断はいかに――。