【日本人人質事件】イスラム過激派組織「イスラム国」が日本人2人を人質として身代金2億ドル(約235億円)を要求し「72時間」の期限を設けた殺害予告事件で、ウルトラCが浮かび上がった。日本政府は「テロには屈しない」と身代金の支払いを拒否しているが、方法として第三者が支払うことが可能なのだ。一方、莫大な額の要求にはイスラム国の宣伝目的との見方もあるが、政府関係者は「原油安の影響で、イスラム国は外国人傭兵(ようへい)への給料を払えなくなりそうだ」と資金難を指摘する声も聞かれる。

 人質とされた湯川遥菜さん(42)とフリージャーナリストの後藤健二さん(47)の救出に、日本政府は打つ手がないままだ。後藤氏は拘束前に映像を残し「何が起こっても責任は私自身にあります。どうか日本の皆さんもシリアの人たちに何も責任を負わせないでください」と語っていたことが21日、判明した。

 とはいえ、政府が何もしないわけにはいかない。菅義偉官房長官(66)は21日、殺害予告期限は日本時間23日午後2時50分ごろだと説明。タイムリミットは刻々と近づいている。

 身代金2億ドルは安倍晋三首相(60)がイスラム国対策に支援した額と同じ。あまりにも巨額のため、識者らは「交渉するつもりはなく、イスラム国の宣伝では」と解説する声が多い。自民党の高村正彦副総裁(72)は21日午前「日本政府が人道支援をやめるのは論外だし、身代金を払うこともできない」と明言。身代金を払えば、テロに屈したとみられ国際社会から批判されることもある。

 米国の態度は徹底しており、テロ組織とは一切の交渉をしない。英国も同様だ。ある政府関係者は「外国政府はどこも身代金を支払わないと思われがちだが、そんなことはない。フランスなどは公式には認めていないものの、過去に身代金を支払ったことがある。国ではなく人質と関係のある企業や団体が払うこともできるのです」と話す。

 永田町関係者も「かなり前の話になりますが、海外で日本人が誘拐されて身代金要求があったときに、第三者の個人や、団体が払って解放されたケースがあります。今回だってできない話じゃない」と明かす。政府が払えないなら別の誰かが。これがウルトラCだ。

「問題は額が大きすぎること。2億ドルなんてポンと払える企業や団体はそうない」(前出の政府関係者)と嘆息するが、あり得ないわけではない。

 別の政府関係者は、イスラム国が抱える深刻な資金難をこう指摘する。

「昨年から原油安が話題ですが、いろんなところに影響が出ています。イスラム国もそう。イスラム国は油田を確保しており、原油の密輸を資金源としています。原油安のあおりを受けて密輸による収入が減少しているとみられます」

 イスラム国は原油の密売によって最高で1日3億円の収入があったと推定されているが、原油価格下落が密輸市場にも影響し、かつてのような収入は望めなくなっているという。収入減は組織には大打撃。イスラム国には外国人傭兵が多数参加しているからだ。

「彼らの給料は自前の兵よりも高い。今までより収入が落ちると彼らの給料が払えなくなってしまい、組織の維持が難しくなってくる。2億ドルの要求にはそういった資金難の事情も関係していると思います」(同関係者)

 給料はシリア人兵士が月給400ドル(約4万7000円)なのに対し、外国人傭兵はその5~10倍だといわれる。

 原油の密輸とともに、イスラム国の資金源は人質をとって身代金を獲得すること。なんとこの1年で3500万ドルから4500万ドル(約41億~53億円)を得たとの分析もある。原油の密輸で稼げなければ、人質ビジネスの割合を増やす恐れもあり、危険だ。

 中東訪問の日程を早めに切り上げた安倍首相は21日夜に帰国。官邸での関係閣僚会議に出席した。安倍首相は「わが国は決してテロに屈することはない。国際社会と手を携えて、この卑劣なテロとの戦いに万全を期す」と一切の譲歩をしない考えを示している。