総務省は7月29日、全国の空き家数が過去最高の820万戸と発表した。この状態に自民党の「空き家対策推進議員連盟」が、行政代執行により空き家を解体できる規定を盛り込んだ法案を秋の臨時国会へ提出する見込みだ。また建物があることで、更地に比べ最大6分の1になる固定資産税の優遇制度についても見直す流れになっている。

 目的のひとつは、倒壊の恐れがある空き家を行政が解体しやすくすること。また固定資産税を抑えるために、使わない建物をあえて残している土地もあるが、税の優遇措置が解除されれば、建物を解体するケースが増える。そのまま放置されていても、固定資産税が上がれば税収が増える。

 一見いいことばかりだが、この流れに衝撃を受けているのが廃虚マニア、近代建築マニア、昭和の町並みマニアたちだ。この法案によって廃虚マニアにとっての“聖地”が急激に消失していくことは間違いない。

「壊すよりまず活用を考えるべき」と指摘するのは、近代建築や産業遺産の記録と価値再発見に取り組んでいるNPO法人Jヘリテージ代表の前畑洋平氏だ。

「例えば大阪の中崎町という古い民家が並ぶエリアは空き家が多かったんですが、ひとりが民家でカフェを始めて人気になると、次々に店がオープン。中心街の梅田からすぐという立地と、ノスタルジックな町並みのギャップで人気エリアになりました。日本にはまだ活用されていない、昭和の色を残す場所がたくさんあります。危ない家屋を解体することはもちろん必要ですが、空き家だからといたずらに壊させ虫食い状態にして町並みを破壊するのは、その地域にマイナスも生みます」

 大分県の豊後高田市の商店街が「昭和の町」をうたって年間30万人以上の観光客を集めているように、古い建物もうまく活用すれば武器になる。しかし一度壊してしまうともう元に戻せない。

 前畑氏は「法律を作るなら、壊すことに行政がお金を使うより、活用して町を元気にすることにお金を使うような、選択肢を増やせるものにしてほしい」と語る。「空き家対策推進議員連盟」にこうした声は届くか。