猪木氏擁立した維新の計算

2013年06月07日 11時00分

闘魂を注入し合う猪木氏と石原共同代表

 日本維新の会が“燃える闘魂”を擁立した「もう一つの狙い」とは…。元参院議員でIGF総師のアントニオ猪木氏(70=本名・猪木寛至)が、夏の参院選に日本維新の会から出馬することを5日、正式に発表した。凋落著しい維新が、猪木氏の持つ“闘魂票”に期待するのは理解できるが、本当にそれだけが目的なのか。裏側を追跡すると、猪木氏の得意技に期待したうえでの「参院選後の狙い」が見え隠れする。

 維新の会の石原慎太郎共同代表(80)とともに国会内で会見した猪木氏は、スーツに赤いマフラーといういつもの姿で登場。「元気ですか~。元気があれば何でもできる!」とキメぜりふをカマし「『猪木の元気』の賞味期限が切れないうちに、日本のために何かできたらいい」と力強く宣言した。

 出馬の経緯については、本紙昨報の「維新伝心・ジェット・シン」のセリフを改めて披露。「サーベル(さあ、ベル)を鳴らすのは誰」のフレーズも含めて書かれた色紙も掲げた。石原氏に「闘魂注入ビンタ」も。その石原氏は「みんなが維新から離れる中『一緒にやろう』と言ってくれた。日本人全体にビンタを入れてやればいい」と笑顔を見せた。

 この言葉どおり、今の維新の会は橋下徹共同代表(43)による従軍慰安婦発言などで猛烈な逆風にさらされている。比例代表の目玉候補に猪木氏を押し立てれば、大きな集票力になる。

「自民党から立候補する格闘家の佐竹雅昭さんに入れようと考えていた40代以上の有権者の票が猪木さんに流れると予想されている。自民党は猪木さんの出馬を“やられた”と思っていますよ」(野党関係者)

 猪木氏擁立の狙いは、他にもあるという永田町の事情通はこう語る。

「猪木氏に、安倍政権に協力させることを計算しているに違いない」

 猪木氏が議員時代、湾岸戦争中のイラクに単身渡り、独自の外交を行い日本人人質の解放に成功したのは、今でも伝説のように語り継がれている。この行動力が、安倍政権に役立つというのだ。行き先は、言わずもがなの北朝鮮だ。

 実際、会見を終えた猪木氏は拉致問題について「当然、公的な立場になったら避けて通れない。私は25回訪朝しているが、朝鮮労働党幹部らと同じテーブルで酒を飲み交わしながら意見交換を行い、独自のパイプを持つことができた」と話し、飯島勲内閣官房参与の先の訪朝についても「(解決に向けて)扉を開いたが、これからどう発展させていくかだ。(安倍内閣に)協力は惜しまない」とキッパリ言い切った。

 もし今、猪木氏が動けば、金正恩第1書記の後見人で叔母の金慶喜氏(66)や、その夫・張成沢国防副委員長(67)らの側近に直に交渉ができる。

「実は故金正日氏は1995年に猪木さんが米国のリック・フレアーと平壌メーデー・スタジアムで行った試合をお忍びで観戦していたんです。その席には正恩氏の叔母で今の後見人、慶喜氏をはじめ大勢の“金ファミリー”がいた。それほど太いパイプを持っている。それが重要なんです」(平壌情勢に詳しい関係者)

 慶喜氏は朝鮮人民軍大将の肩書を持ち、北朝鮮の「陰の実力者」で“女帝”と呼ばれる人物。猪木氏が慶喜氏を口説き落とせれば拉致問題が前進することは間違いない。

 ただ、維新の橋下共同代表は、慰安婦問題で朝鮮半島の反感を買いまくり、もう1人の石原共同代表も決して北朝鮮との交渉に前向きには見えない点だ。維新と拉致問題解決がしっくりこないのが有権者の感覚だろう。「維新の支持層からすると、北朝鮮と猪木氏の近さはむしろ反感につながるかもしれません」と指摘する関係者もいる。

 だが、そこにこそ“参院選後の狙い”が見えると前出の事情通は言う。

「猪木氏が動いて拉致問題解決への糸口が見えれば、維新は安倍政権に大きな恩を売ることができる。落ち目の維新としては、どんなカタチでも自民に乗っかれれば、しめたものだろう」

 確かに憲法改正問題でも、維新の会は自民に近いといわれている。相変わらず勢いの衰えない自民に接近できれば、それはプラス材料と言える。

 猪木氏の政界復帰は拉致問題解決だけに限らず、政界に新たな動きをもたらすことになりそうだ。