安倍晋三首相は15日、消費税率を来年10月1日に現行の8%から10%に予定通り、引き上げる方針を表明した。社会保障制度の財源確保が目的というが、足元の日本経済の雲行きは怪しい。この日の株式市場ではトヨタ自動車が年初来安値を更新。つい2週間前まで活況を見せていた市場からは、海外投資家が一目散に逃げ出している。このタイミングで消費増税すれば、デフレ時代に逆戻りすることは分かっているはずなのに…。実は今回の表明は、三たびの消費増税延期をブチ上げるための壮大な前フリではないのか――。

 消費増税に必要不可欠なのは景気回復だ。大規模な金融緩和を柱とする経済政策「アベノミクス」により、民主党政権下で1万円を割った日経平均株価は2万5000円ほどまでに上昇。大手企業は軒並み好決算だ。首相の心の声を訳すならば「好景気の今なら消費増税しても耐えられる」ではなかろうか。

 安倍首相は、この日の臨時閣議で、来年10月の消費税率10%への引き上げを指示。景気刺激策として自動車税の引き下げや住宅ローン減税の延長・拡充、食料品などを対象にした軽減税率のほか、中小の小売店で買い物をした消費者に、増税分をポイント還元する対策などが検討されている。

 もっとも、“女房役”の菅義偉官房長官は、かねてこう付け加えている。

「(消費増税は)リーマン・ショックのようなことがない限り実施する」

 2008年9月、米国の投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻したことで世界規模の金融危機が発生し、日本は長期間にわたってモノの値段が下がり続け、市場全体が収縮するデフレ不況に苦しめられた。

 このクラスの金融危機が起きないという前提で消費増税を決意したのだろうが、その見通しは甘いと言わざるを得ない。

 目下、世界ワンツーの経済大国である米国と中国が互いに関税を上乗せし合う貿易戦争を繰り広げている。これは単なる経済的な争いではなく、世界の覇権争いだ。電撃的な和解の可能性は極めて低く「向こう10~20年は冷戦が続く」とみる市場関係者もいる。

 矛先は日本にも向けられている。巨額の対日貿易赤字解消のため、トランプ米大統領は自動車関税や輸入制限をチラつかせ、米国に有利な貿易協定を結べと“恫喝”。為替レートに関しても、円安ドル高を抑制するため“介入”してきた。

 その結果、何が起きたかというと…。

 今月2日に2万4270円62銭をつけていた日経平均株価は急降下。11日には前夜の米ダウ市場が急落したことを受け、一時1000円安まで値を下げた。15日も軟調で、終値は前日比423円36銭安の2万2271円30銭だった。

 特筆すべきは日本を代表するトヨタ自動車がこの日、年初来安値となる終値6450円をつけたこと。市場関係者は「貿易戦争や米国の為替介入で日本の輸出企業株が売られている。日本の株式市場の7割は海外投資家で、彼らは2週間前の高値の後から続々と逃げ出している。トヨタが年初来安値をつけたように、実体経済には不安要素しかない」と話す。

 こうした状況下で消費増税すれば、再びデフレ時代に逆戻り。とりわけ小売業は悲惨なことになるだろう。

 政界関係者の間では、安倍首相の消費増税宣言は、お笑いトリオ「ダチョウ倶楽部」の「押すなよ、押すなよ」ばりの、壮大な前フリである可能性を指摘する声が上がっている。

「このままいけば、消費増税に反発する声が拡大し、内閣支持率は下がる一方。そうなれば来夏の参院選で大敗することになる。そこで参院選前に、米中貿易戦争を理由に消費増税を撤回。それを争点にして参院選、下手をすれば衆院選とのダブル選挙になだれ込む算段ではないか。今回の消費増税宣言はあくまでポーズで、実際は支持率次第で三たびの延期も頭にあるだろう」

 消費税率は14年4月に8%になった後、15年10月に10%に上がる予定だった。しかし、安倍首相は延期を2度表明。16年6月に再延期を明らかにした当時は、伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック前に似ている」との世界経済認識を口にしたのは記憶に新しい。

 来春には、やむにやまれぬ事情で消費増税を再々々延期し「さすが国民の生活に寄り添う安倍さん!」という、おなじみの展開になっているかもしれない。