JR九州「農業進出」の勝算

2012年11月30日 14時56分

 鉄道会社である「JR九州」が子会社を通じて本気で農業に進出し、将来は経営の柱のひとつに育てようとしているという。鉄道会社がなぜ農業? その疑問を持って「JR九州ファーム大分」の森勝之社長を直撃。森社長が語った深い理由とJR九州の九州への思いとは?

JR九州といえば、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏デザインの独特の車両や、来年から運行が始まる豪華寝台列車「ななつ星in九州」など、他の鉄道会社とは一線を画した経営で知られている。単なる“旅の移動手段”としか考えられていなかった鉄道は、JR九州によって“旅の目的”に昇華したといっても過言ではない。

そんなJR九州が、子会社を通して本気で農業に取り組んでいるという。すでに2年前からニラの栽培、出荷を開始。昨年は収穫量66トン、2600万円を売り上げ、今年は収穫量162トン、6600万円の売り上げを見込んでいる。さらに昨年から甘夏(平成24年度収穫見込みは0・3トン、200万円)、今年から甘藷(同50トン、900万円)も手がけている。

いったいなぜ鉄道会社が農業を? 同社初の農業子会社、JR九州ファーム大分の森社長によれば、そこには「採算」だけにとどまらない理由があるという。

「九州は工業だけでなく農業も盛んで、様々な作物ができます。しかし最近は高齢化が進み、就労人口が減って耕作放棄地が増えているんです。一企業という視点から言えば、就労人口減はお客様が減ることにつながり、耕作放棄地が増えると、車窓の風景が変わってしまう、という問題があります」

農業の衰退は、乗客減などの直接的な影響を及ぼす。しかし、これは“小さな”理由に過ぎない。

「それ以上に、これはJR九州の唐池(恒二社長)が常に言っていることですが、JR九州は九州を地盤とする会社として、九州を盛り上げていく使命があります。後継者がいない優秀な農地を守り、地域と一緒にこれからを考えていく。すでに耕作放棄地や廃作した葉タバコ農地を複数引き継いでいますが、例えば農業をやりたい若者が会社に入ってやるということもできます。また、収穫時にはシルバー人材センターにお願いして人を出してもらいますので、地元の雇用促進にもなります。収穫した作物の大部分は農協を通して出荷しますが、一部は系列のホテルでオリジナルスイーツなどに使います」

農業進出の“大きな”理由は、九州の農地や雇用を守りながら「九州を元気にする」ことだという。しかも「片手間ではありません。先日、農家の方から『あんた達、本気なんやな』と言われたのですが、JR九州の事業のひとつの柱にするつもりで取り組んでいます」

本気が伝わったからか、周囲の農家も協力的で肥料についてや猪、鹿、猿からの被害を防ぐアドバイスをしてくれるという。「ただ、動物の方が早くて食べられてしまったことも。地元の方々に聞き、勉強しながらやっています」

甘夏を加工したスイーツは「ゆふいんの森号」車内などで売られて完売。今年初めて収穫した甘藷の「甘太くん」は「ななつ星」で食材として使うことが検討されている。うまい食べ物は全国から人を集める目玉にもなり、観光面でも九州を盛り上げる。5年後に売り上げ10億円を目指すという。