希望の新ビジネス!駆除したエゾシカから“ED治療薬”

2019年06月26日 07時15分

駆除エゾシカで商品を開発した鄭権氏

 北海道だけに生息する野生のエゾシカは、明治初期の乱獲や大雪などの影響で一時は絶滅寸前だったが、政府の保護政策で現在は道内全体で推定60万頭以上も生息する。今度は増え過ぎたエゾシカの採食や踏み付けが生態系に悪影響を与えるようになり、畑の作物や植林の木の芽や樹皮を食い荒らし、農林業の被害が拡大。車や列車との衝突事故も増加傾向にあり、害獣となっている。そんな駆除されたエゾシカを“勃起薬”などの生薬素材として“リサイクル”に成功した人物がいる。

 エゾシカの捕獲頭数は年間約12万5000頭(2015年調査)。このうち、ジビエとして食肉に利用されるのは17・6%だけで残りは廃棄されているという。

 廃棄されるエゾシカを有効活用した生薬素材を開発した北海道鹿美健株式会社の代表取締役の鄭権氏はこう語る。

「駆除されたエゾシカの皮・骨は、ほぼ利用されず、産廃物として焼却処分されています。これに伴う焼却費用の発生、環境汚染の誘発も懸念されており、各自治体を悩ませているそうです。エゾシカが大量に廃棄されていることを知って、心を痛めていました。シカは中国伝統医学では宝。もったいない、かわいそうだと思いました。私のノウハウがお役に立てればと参画を決心しました」

 鄭氏は、東京で株式会社健康ビジネスインフォを営み、ロバの膠(にかわ)である「阿膠(あきょう)」の健康食品で成功。その成功とノウハウを生かして、北海道・新ひだか町の廃校のビジネス活用企画公募に参画し、鹿皮を利用した生薬素材の開発・製造と地域交流多目的施設を始めた。

 しかし、原料の調達から苦労の連続だった。捨てるのはもったいないと分かっていても、小人数で運営している鹿肉施設にとっては、保管する手間は負担になるようだ。

「将来の見通しが不透明とのことで、協力したい気持ちがあるが、なかなか応じていただけませんでした」(鄭氏)

 その他、他社で皮骨の利活用の失敗事例があったので、最初はなかなか信用されなかった。失敗して夜逃げした業者や、代金未払いで被害を被った鹿関係者の信用を得るのにも苦労した。

 さらに、経験豊富な膠職人を中国から招聘するにあたり、前例がないので、最初はビザが取れなかった。輸送距離、コスト、冷凍設備の故障で使えなくなってしまった廃棄物の悪臭など、さまざまな苦労を乗り越えて、汗と涙の結晶「鹿膠(ろくきょう)」は完成した。そこまで尽力したのは、効用が魅力的なので日本に広めたいという鄭氏の思いもあった。

「鹿皮、鹿骨から作られる鹿膠は造血、免疫力増強、抗疲労、抗老化などの作用があり、再生不良性貧血、ED、痴呆症、不妊症、乳腺症、呼吸器疾患に加え骨折、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症などに対する効果が期待されるとして、中国では長年にわたって重用されています」と薬学博士でもある鄭氏は語る。

 また、薬剤師の大野登志生氏は「腰椎・頸椎などの椎間板ヘルニアによる腰・首の痛み、関節痛、頻尿・尿漏れなどの臨床治療のデータをまとめた論文が多く発表されています。また、動物実験では抗疲労、免疫増強、抗酸化などの薬理作用があることも発表されています」と言う。

 道内でエゾシカ専門の処理加工と販売を手掛ける業者から調達する契約を結び、地元で活躍しているハンターたちとも交流を深めながら、2年間かけて製造に成功した生薬素材は、町の希望の新ビジネスだ。