犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏の特別寄稿第2弾! 愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者の平尾龍磨容疑者(27)が脱走し、20日で12日たったが、いまだ発見、逮捕に至っていない。まさに“日本版プリズン・ブレイク”の様相を呈している。刑事時代に多くの窃盗事件捜査を手掛けた小川氏が、潜伏先とみられる広島県尾道市の向島を現地取材。警察が今すべきことを緊急提言した。

 向島は周囲28キロで、予想以上に隠れる場所が多い。山あり海あり、造船作業場や倉庫、空き家は1000戸以上ある。

 捜査員が、平尾容疑者が家屋に逃げ込むのを目撃したり、潜伏を確認したりした場合、空き家だろうと実際に人が居住する民家だろうと、逮捕行為として中に入るのは可能だが、捜索ではそうはいかない。家屋の所有者の立ち会い、許可を得るのが必要で、それも確認作業が遅れている要因の一つ。だがモノは考えようで、いくら大きい島とはいえ、島内から出ていない可能性が高く、島に封じ込めているわけだ。

 平尾容疑者は窃盗などの罪で服役していた。出店・事務所荒らしや金庫破りの余罪は100件以上。プロの職業泥棒で、手口も夜間無人の美容室などへの侵入など荒っぽい。その辺の“コソ泥”とは違い、連日犯行を敢行してきたわけだから、常日頃から警戒を怠らない。しかも夜行性で、脱走後、盗みを重ねながら逃げるのは朝メシ前と思われる。

 受刑者でも松山刑務所の大井造船作業場には簡単に入れない。IQテストを受け、最初の服役先で超模範囚であることが条件。以前取材した入所者は北海道の刑務所の800人から選ばれた1人だった。IQの高さと「絶対に逃げない、逃げようとしない、逃げたいとも思わないこと」も絶対条件。各地の刑務所から刑務官の推薦で松山刑務所に移送され、訓練後、大井造船作業場へ行く。

 他の刑務所と比べ、待遇も違う。作業賞与金は見習い期間は1日60円、月1200円程度だが、その後は月1600円、2000円と上がる。大井造船作業場では月1万8000円前後がもらえ、食事メニューや量も違い、テレビも毎日見ることができる。外には行けないが、自由は多い。何より他と大きく違うのは日本で一番、仮釈放の期間率が長いことだ。

 車両を盗もうとしてメモを残すなど、逃亡中にここまで頭が回る逃亡犯は、そう簡単には捕まらないだろう。だが、ここまで逃げられては警察のメンツもある。職業泥棒は「気付かれない、見つからない、捕まらない」の3つが常日頃から身に付いている。だから平尾容疑者が昼間動くことはないだろう。ただ逃げるプロとはいえ、食べることも寝ることも必要。

 私が現地取材した時、昼間は3~5人程度の班での捜索と、車両での張り込み。それに加えて夜通しでの検問だった。もっと逃亡者の嫌がることをやる必要がある。侵入盗犯も逃亡者も、嫌うのは「目」「光」「音」だ。

 人の目はもちろん、防犯・監視カメラも「目」だ。島内に防犯カメラは非常に少ないが、警察には移動式防犯カメラがある。愛媛・広島県警は各県警の協力を得て、主要地点に設置する必要がある。また最近はやりのドローンも効果的で、民間の協力を得てバンバン飛ばすのも手だ。

「光」は、人に反応してライトが点灯する防犯センサーライトのものや、機動隊が保有するハロゲン車も有効だと思う。人が通過すると音が鳴る、防犯センサーと連動した「音」の他、島内にある防災無線も使うべきだ。それを使い、平尾容疑者に呼び掛けるのも手。

 民間の協力を得て嘱託の警察犬も大量投入するのも一つの手では。また職業泥棒ゆえ、捜査段階で取り調べに3か月から半年はかけたと思われる平尾容疑者なら、当時の取調官に話を聴くのもいい。取調官は彼の性格も逃げ方も分かっているはずで、ヒントを得られる可能性は大。

 逃亡が長引けば、人員を割くことも難しくなってくると思われる。警察の威信をかけ、あらゆる手を使うしかない。