フィリピンの反アラブ運動は出稼ぎメイド惨殺事件が発端

2018年04月06日 07時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】中東クウェートでメイドとして働いていたフィリピン人女性ジョアンナ・デマフェリスさん(29)が2月に殺害された事件で2日、雇い主だったレバノン人の夫ナデル・エサム・アサフ(40)とシリア人妻モナ・ハッサン(37)に絞首刑による死刑判決が下された。

 この事件はフィリピン国内で「反クウェート」「反アラブ」の国民的な怒りを呼んだ。フェイスブックなどSNS上では「ジャスティス・フォー・ジョアンナ(ジョアンナに正義を)」運動が巻き起こり、犯人夫婦に対する死刑と被害者の名誉回復を求めていた。

 その運動のフェイスブックによると、ジョアンナさんは2014年、家族の生活を支えるため、出稼ぎでクウェートで働くことを決意。現地に移って以降、フィリピンの家族への連絡は3か月に1度の電話だけで、それも16年9月を最後に途絶えた。

 そして今年2月、クウェート中心部の港湾地区アル・サーブの廃虚アパートで、変わり果てた姿で見つかった。遺体は捨てられた冷凍庫に押し込められていた。犯人夫婦は逃亡先のシリア・ダマスカスでインターポール(国際刑事警察機構)によって逮捕された。

 フィリピン地元紙「フィル・スター」によれば、ジョアンナさんはしばしば虐待を受け、目が腫れて見えなくなるほど殴られることもあった。クウェートではこの2年間でフィリピン人196人が「健康上の理由」で死亡し、大半は過酷な環境に耐えかねての自殺という見方もあるという。

 経済発展の続くフィリピンで、主要な外貨獲得源は今も出稼ぎだ。高い英語力を生かし、約1000万人のフィリピン人が世界各地で働いている。「OFW(Overseas Filipino Workers)」と呼ばれる彼らの送金が経済を支えている。

 その需要は特にクウェートなどアラブ湾岸諸国で高く、彼らはメイドや建設作業員、飲食業などに従事しているのだが、差別的な扱いはたびたび問題になっている。

「女性だけでなく、アラブ諸国で働いたフィリピン人男性も、帰国後トラウマに苦しんでいる。ファストフード店で働いていた男性は雇用主と客からのひどい差別やパワハラ、暴力を受けた。女性はレイプされることも珍しくない」と訴えるのは、国外労働者の権利を訴える「OFWガジェット・ドットコム」だ。

 アラブ系の金持ちは、タイやフィリピンなど東南アジアで休暇を過ごすケースが多いが、イスラムの戒律から解放され、酒に女に…とハメを外す醜態が近年、目に余る。

「フィリピンでは北部のアンヘレス、タイではバンコクの歓楽街ナナ周辺にアラブ系が集まる。ただ、風俗店では出入り禁止のケースが多く、バンコクではアラブ人客が来ると『ウチは会員制だから』と断る店が大半。風俗嬢に平気で暴力を振るうから。殴るのもプレーの一環だと言わんばかりだから、歓迎されてない」と東南アジアの風俗事情に詳しいライターだ。

 その根底にはアジア人や女性への根強い蔑視があるといわれるが、グローバル化が進む現在では通用しない感覚だろう。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、4年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「海外暮らし最強ナビ・アジア編」(辰巳出版)。