2011年に群馬県前橋市で当時1歳4か月の女児が「おはらい」と称した暴行を受けて死亡した事件で、傷害致死罪に問われた霊能力者「中島順聖(せいしょう)」こと無職北爪順子被告(64)の裁判員裁判初公判が26日、前橋地裁(鈴木秀行裁判長)で開かれた。被告は暴行を否認して、無罪を主張。証人尋問に立った女児の実母は「死因は順聖先生にある」と、主張が真っ向から対立している。

 起訴状によると、北爪被告は11年5月2日夕方、前橋市の自宅アパートで城田麻雛弥ちゃん(1=当時)の両脇を抱えて、頭上に放り投げて床に叩きつけ、急性硬膜下血腫などの傷害を負わせ、同6日未明に死亡させたとしている。

 冒頭陳述で検察側は、被告が女児の中に「悪魔がいる」と言って、女児の実母が見ているところで「おはらい=暴行」したと強調。弁護側は、被告がおはらいをしたことはないとして「アパートの2階の部屋に女児と実母を残して、階下の自室に行った間に事件が起きた」と無罪を訴えた。

 今年1月4日に留置先で計測した身長と体重は149センチ、37・4キロと、北爪被告は非常に小柄。白髪交じりの髪を団子にして、手先の爪をとがらせ、足を引きずって歩く姿は“魔女”をほうふつとさせる。だが「私、今回の事件とは関係ありません。事件当時、部屋にいませんでした。無実です」と語る声色だけは、アニメ「まんが日本昔ばなし」で声優を務めていた女優・市原悦子そっくりの癒やし系ボイスだった。

 初公判から、実母の証人尋問も行われた。パネルで姿を隠した実母は、死因を「順聖先生に投げつけられたから」と述べた。実母は被告の次女を通して被告と知り合った。体調不良や銀行ローンの相談まで引き受けてもらい「背中を叩いてはらってくれた。すっきりして視界も開けた」。

 毎日のようにアパートへ行って家事を手伝うようになり、女児を妊娠中、流産の可能性を医師から指摘されたときも被告から助けを受け、信頼感が高まった。

 その状況に暗雲が垂れ込めたのは、父方の実家に女児を連れて行こうとした時だ。被告が「親族は盗賊の一族。実家に女児を上げてはいけない」と脅したのだ。それでも実家に女児を上げてしまった実母に「女児は悪魔の子だ」「女児は犯罪者になる」と畳みかけた。

 これをきっかけに強烈な「おはらい」が始まる。女児をツボ押し棒で叩いたり、急に突き飛ばしたりしだした。「親なんだから」と実母にも背中を叩かせた。

 事件直後から、母親はうそをつき続けてきた。女児を連れて駆け込んだ病院でも「餠を喉に詰まらせた」「次女の家で起こったこと」と語り、警察にも同様の話を続けたのだ。「先生に迷惑をかけたくなかった」

 警察の疑念は実母にもかけられ、家宅捜索や事情聴取も行われた。続けてきたうそを急に翻したのは、うその供述で作られた調書にサインできなかったため。法廷では被告に向けて「本当のことを話してほしい。今まで一度も自分を被害者だと思ったことはない。自分も傷つけた一人。刑を望むよりも、ちゃんと話して認めてほしい」と語りかけた。

 しかし被告側も反論。女児のアザは「実母の虐待」と主張する。

 判決は3月9日に言い渡される予定だが、真っ向から対立する主張は果たしてどちらが認められるのか?