日本人なぜ狙われた?

2013年01月29日 11時00分

 アルジェリア人質事件では、アルジェリア政府が犯人グループとの交渉を拒否したことが被害拡大につながったとみられているが、国別でみると犠牲者37人中、日本人は10人と最多で、前例のない規模のテロ事件となった。武装勢力が日本人を標的にした真の理由は何だったのか。

 アルジェリア紙・アッシュルーク(電子版)は24日、逮捕されたイスラム武装勢力の男が、指導者のベルモフタール司令官から「フランス人と英国人、日本人の計5人を人質にしろ」と指示されていたと報じた。一方で、アルジェリア人や他国のアラブ人、イスラム教徒の労働者には危害を加えないように注意していたという。

 現地から帰国した日揮の川名浩一社長(54)は25日、横浜市の本社で記者会見を行い、最初に無事が確認された3人の駐在員のうち1人から聞き取った内容を明かした。

 襲撃時に自室にいた駐在員は、襲撃翌日の17日午前9時45分ごろ、部屋の小窓から外をのぞくと、日揮のアルジェリア人スタッフ数人が見え「安全担当のスタッフが部屋に行くからそれまで待て」と言われ、数分後に訪れたスタッフとともに初めて部屋を出た。外国人とわからないよう、頭にターバンを巻かれ、顔はネックウオーマーで隠すように言われ、アルジェリア人に取り囲まれるようにして脱出した。

 日本人と気付かれないよう配慮したのが命を救ったが、そもそも日本人が標的にされた理由は何だったのか?

 中東情勢に詳しい、財団法人「中東調査会」研究員の高岡豊氏(37)はこう話す。

「一般論として、アルジェリアはアラブ諸国の中でも、プラント建設などで多くの日本人が入っていた国なので素朴な親日感情がある。ただし、今回は前例がない規模の事件。武装勢力が日本人の扱いについてこれまでとは違うことを考えていた可能性も考えられる」

 一部報道によると、救出された「日揮」スタッフのフィリピン人は、17日午後に軍の攻撃が始まると武装勢力は人質に「日本人は名乗り出ろ」などと命じ、国籍ごとに分けて7台の車両で別の場所に移動したと話している。つまり、「日本人の人質」を明確に区別していたことは確実だ。

 高岡氏によると、事態を複雑にしているのは、武装勢力が発信した犯行声明の方法の特異さもあるという。

「権威のあるイスラム過激派なら広報部門を設け、インターネット上に掲示板を作るなどして犯行声明を出す。しかし今回は自前の広報部門は持っておらず、ベルモフタール司令官はモーリタニアの通信社に情報を流しただけ。これでは信ぴょう性に乏しく、分析することが難しい」

 また、犯行声明では日本やフィリピンについては一切触れられておらず、武装集団が組織として日本人を狙っていたかどうかはいまだ闇の中だ。一部では「日本政府がフランスのマリ介入を支持していたから、日本人が狙われた」「アルジェリア政府や欧米に対して、人命第一を掲げる日本政府が『武装勢力に手荒なことをしないで』と働きかけるのを期待していた」との見方もあるが、高岡氏は「武装勢力が日本語で書かれている外務省の報道官声明を見ていたとは考えにくい」とみている。

 日本人が狙われた真相は、生存者の証言やアルジェリア政府の情報開示に期待するしかない。だが「政府筋や捜査機関からは武装勢力をテロリストとしておとしめる内容しか出てこないだろう。納得できる情報が得られる可能性は限りなく低い」(高岡氏)と、真相究明は絶望的な状況だ。

 岸田文雄外相(55)は25日、海外における企業、邦人の安全のための対策チームを省内に設置し、事件の検証や政府の対応について専門家からヒアリングを行うとした。だが、過去最悪の事件の真相解明すらできなければ、世界中で日本人が狙われてしまう。