亡命事件勃発の南北非武装地帯「板門店ツアー」即中止にならないワケ

2017年11月17日 07時00分

ツアーは記念マグカップとスタンプラリー付き

【アツいアジアの旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】北朝鮮軍の兵士が13日午後、軍事境界線を越え韓国側へ亡命。北朝鮮側から40発以上もの銃撃を受け、ソウルの病院へ搬送された。15日までに受けた2度の手術は成功したが、人工呼吸器が必要な意識不明の状態が続いている。

 兵士が“突破”したのは、南北境界線の非武装地帯(DMZ)。朝鮮戦争(1950~53年)の停戦ラインがそのまま南北を分ける国境となり、今も固定されている場所だ。もちろん行き来できない。境界線の中央から南北それぞれ2キロ範囲は軍事行動が一切許可されていないが、その外側には両軍が展開。これまでたびたび衝突も起きている。

 DMZでもとりわけ両軍による厳重警備が敷かれている板門店が今回の舞台。韓国メディアによると、板門店の警備に当たる北朝鮮兵士は、家族も含め、厳しい思想チェックを受けた上で配備されるエリートだという。

 一歩間違えたら両軍の交戦に発展しかねない亡命劇。それだけに現場はさぞ緊迫しているのかと思いきや「すでに平常通り」とは韓国の地元旅行会社。板門店は一般人の個人訪問こそ禁じられているが、現地韓国発のツアーでなら行ける。国内外の多くの観光客がこれまで参加してきたこのツアーは、15日現在も募集されている。

「当局からの通達があって、来週はお休み。でもその翌週、今月末からは再開する予定だよ」(関係者)

 板門店ツアーには、軍事境界線の真上に建つ軍事停戦委員会の会議場もコースに入っている。兵士の姿を確認できるほど北朝鮮に近付けるため、日本や中国、欧米人にも人気。「ツアー利権も複雑に絡んでるから、おいそれと中止するわけにいかない」のだとか。聞けばこれまで、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃っても、核実験をやっても、数日は様子を見るがすぐ再開されてきたという。

「第3トンネル」ツアーというのもある。そこは北朝鮮特殊部隊がDMZの真下を約1・6キロにわたって掘った地下トンネル。1時間で武装兵3万人が潜入できる規模で、発見当初は韓国に衝撃を与えた。このツアーも臨時休業すらなく通常通りで、月曜以外は毎日催行されている。

 コースには“北朝鮮に最も近い鉄道駅”の都羅山駅も入っていて、周囲に住人はおらずガランとしているが、土産物店だけはしっかり営業している。「北朝鮮の酒、DMZ訪問記念Tシャツ、帽子、チョコなど種類豊富で、ツアー客たちがこぞって買い求める」とはツアーに参加した日本人。駅構内ではスタンプラリーも行われ、日本人の鉄道オタクにもひそかな人気という。

 亡命や衝突はある意味“日常的”だからこそ、緊迫感がないのかもしれない。だが、もし万が一の事態が起きたらDMZは即、最前線となる。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。3年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。