京都、大阪、兵庫3府県で起きた高齢男性4人の連続不審死事件で、夫や内縁男性らに青酸化合物を飲ませて殺害したとして3人の殺人罪、1人の強盗殺人未遂罪に問われた筧千佐子被告(70)の判決公判が7日、京都地裁で開かれ、中川綾子裁判長は求刑通り死刑を言い渡した。弁護団は即日控訴したが、筧被告の周辺で起きた不審死は今も完全解明されていないままだ。

 中川裁判長は主文言い渡しを後回しにし、判決理由の朗読から始めた。この時点でNHKが「筧千佐子被告に死刑」とテロップを流し、のちに訂正、謝罪した。公共放送のNHKが判決前に“人を殺す”のは前代未聞。それほど報道各社も前のめりになる事件だったということか…。

 裁判長が判決理由を先に述べる場合、死刑の言い渡しが慣例となっている。いきなり主文の「死刑」を告げられると、被告が理由をしっかりと受け止められなくなる可能性があるためだ。「主文後回し=死刑が浸透してしまったため、パターン化を避けるよう、最近では主文後回しでも無期懲役や有期刑というケースも出てきている」と法曹関係者。

 判決は起訴された4件全てを青酸化合物を使った筧被告の犯行と認定。夫の勇夫さん(75)殺害について、同裁判長は「疑いなく青酸化合物を服用させることができたのは、自宅で一緒にいた筧被告以外にいない」と指摘し、内縁関係だった本田正徳さん(71)に関しても「死亡から間もなく遺産取得の手続きをしており、遺産目的で殺害した」と認定した。

 6月に始まった裁判員裁判では、筧被告の認知症も焦点となった。被告人質問初日、弁護人に対し「黙秘する」と答えたかと思えば、直後の検察側質問に一転して夫殺害を認めた。裁判官の質問には「私があやめた」とも。動機は「差別です。他の女性には何千万円も渡したのに、私には一銭も渡さなかった」と早口でまくし立てた。

 一方、本田さんら3人については「殺したイメージがない」「毒を使った」などと矛盾発言を連発。「明日、死刑になっても笑いながら死んでいこうと思っている」とも述べ、裁判員が「反省しているのか?」と質問すると、「している、していないの問題じゃない。少女漫画のようなこと言わないで!」と激高する場面もあった。

 この日、同被告は黒のセーターと灰色のハーフパンツ姿で入廷。死刑判決にも全く動じず、裁判長から起立を促された際には「もっと大きな声で言ってください」と食ってかかった。

 認知症などに関連し、判決は筧被告の責任能力と訴訟能力も認定。関係者によると「本人も痴呆老人扱いされることを毛嫌いしており『1000%死刑だ』と納得している。弁護側は即日控訴したが、被告は一部メディアの取材に『控訴せず、きれいに散る』と宣言していた」という。

 筧被告をめぐっては、本紙が2014年の逮捕後に報じたが、ほかにも不審死が相次いでいた。当時、犠牲者の数は4人どころか、大阪5人、京都2人、兵庫3人、奈良2人、和歌山1人、島根1人の計14人に上るとの情報も。捜査関係者は「証拠が乏しく立件が難しい。筧被告が死刑執行までの間に重要証言を残してくれればいいのだが…」と唇とかむ。

 今年4月には元暴力団組長の死刑囚(殺人罪など)が、以前に告白していた別の殺人への関与の疑いで警視庁に逮捕され、「死刑囚の逮捕は極めて異例」と衝撃を呼んだ。

 筧被告に“新たな事件”が浮上する可能性はまだあるのか。