「邦人拉致」の狙いと背景

2013年01月17日 14時49分

 アルジェリア南東部イナメナスでプラント建設大手、日揮(本社横浜市)の日本人駐在員らが拉致された事件で、犯行を認めた国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装勢力は16日夜(日本時間17日未明)、人質の安全と引き換えに、隣国マリでのフランス軍の軍事作戦停止を要求した。同地で過激派に人質を取られた場合、即殺害されることは過去なかった。だが、専門家は「現地の相場観が変わっていて、経験則があてはまらない可能性もある」と指摘する。

 武装勢力は、米国人7人を含む外国人41人を人質に取ったと主張。うち、日本人はプラント建設大手「日揮」の社員、または協力企業の関係者だという。首相官邸は対策室を立ち上げ、会見に立った菅義偉官房長官は拘束された日本人が日揮関係者であることを確認、情報収集に全力であたるとともに、被害者の人命を第一に対処する方針を発表した。

 中東情勢に詳しい公益財団法人「中東調査会」の研究員・高岡豊氏(37)は「仮に今回の襲撃が『イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)』によるものだとすると、犯行声明はいつも特定の経路で発表する」と説明。その通り、日本時間17日未明に犯行声明を発表した。

 現時点で関与を疑われるAQIMによる犯行を前提に、高岡氏に背景を解説してもらった。「武装勢力にとって現在のアフリカに引かれている国境に意味はないが、フランスがマリに軍事介入したことが、今回の襲撃の引き金になっただろう」と推測する。

 11日、フランス軍はアルジェリアと隣接するマリを空爆。マリではイスラム系反政府勢力が大多数を制圧している。そのため、襲撃は「軍事介入に対する報復」という見方ができる。だが、北アフリカ地域では「ここ5~6年の間、過激派は『明らかに白人。明らかにキリスト教信者』である対象しか狙ってこなかった」(同氏)。日本人が人質になったとすれば、その狙いは何か。

「日本人に対して恨みはない。外国人が多くいるところを狙ったのだろう」と同氏は推測する。

 この一連の誘拐事件には報復以外にも目的はある。「先進国の人間を人質に取れば、それだけ自分たちの反フランスの行動の広報効果がある」(同氏)。事実、日本は即座に対応を表明し、マスコミも襲撃のニュースとともにマリ侵攻を改めて報じた。

「フランスが攻め続ける限り、あなたたちの国の人に危害が加わりますよ」という警告はすでに効果的に各国に伝わっている。テロの狙いはすでに成功したと言える。

 ところがフランス軍は16日もマリのイスラム過激派を撃退するための空爆作戦を継続。同日夜の段階で攻撃を緩める兆候はない。アルジェリアのウルドカブリア内相は「テロリストの要求には応じず、いかなる交渉も拒絶する」と述べ、犯人側との交渉を全面的に拒否した。

 そのため、最大の関心は当然、人質の安否だ。北アフリカ地域で過激派が人質を取った場合「経験則から言えば、捕まった人質がすぐに殺されることはなかった」とした上で、高岡氏は「多くの国の人質が取られた。そのことだけでも、すでに経験則があてはまらないことを意味する」と懸念を示した。

 さらには「2004年から2005年のイラクでは、捕まれば99%人質を殺す団体も存在した」(同氏)という。最悪、その状況に類する事態になりつつあるかもしれないのだ。

 今後、過激派の増長を良しとせず毅然と立ち向かうか。フランスにこれ以上の攻撃をやめさせるか。人質を取られた国々は対応に苦慮するだろう。日本を含めた各国は判断を求められる。