警視庁捜査3課は22日、銭湯に侵入し入浴券を盗んだとして、窃盗容疑などで東京都世田谷区の無職、道端英樹容疑者(66)を逮捕した。道端容疑者は「覚えていないので、時間をかけて思い出す」などと話している。“覚えていない”のも無理はない。なぜなら道端容疑者は、銭湯を主戦場にしてあまりに多くの盗みをはたらき、どの事件が逮捕容疑なのかわからないという。捜査員の間でも「風呂屋のミッチー」と呼ばれるほどの有名ドロだった。

 道端容疑者は2015年11月10日、午前4時から8時ごろの営業時間外を狙って、東京都荒川区内の銭湯に忍び込み、番台の引き出しから入浴券約100枚(計4万2000円相当)を盗んだ疑い。同様の手口でこれまでに40件以上(被害総額約80万円)の犯行に関与したとみられ、盗んだ2000枚以上もの入浴券は東京のドヤ街、山谷で売りさばいていた。

 10年ごろから墨田区や台東区などの銭湯で入浴券が盗まれる被害が頻発しており、現場に残された手袋から検出されたDNA型が道端容疑者のものと一致し、御用となった。元手ゼロの入浴券を山谷の労働者らにおそらく激安価格で売るという“シゴト”だったのだろう。

 道端容疑者は世田谷区内の生活保護者向けの低額宿泊所に1週間前に引っ越してきたばかりだった。1部屋を2人で仕切って利用し、1人分のスペースは1・5畳分ほどある3食付きで月額利用料は約5万6000円ほど。

 入居者は「昔もスーパーで商品を取っちゃったとかで入居者が捕まったことは何回かあったけど、ニュースで名前が出たのは初めて」と驚く。さらに道端容疑者について「いつも独り言をブツブツつぶやいていて、少し様子がおかしかった。誰としゃべるわけでもなかった。道端さんがどこから来たのか誰も知らないんじゃない? 施設は高齢者ばかりで、中で酒も飲んじゃいけないし、昔みたいに将棋をやったりする連中もいないし皆、個人個人だから」と語る。

 別の入居者は「食事は2班に分かれて食べるんだけど、道端さんは食いっぷりがよかったな。ここは風呂もあるし銭湯には行ってなかったんじゃないか。実は(逮捕当日の)22日朝、道端さんは2日間の外泊届を出していて『仕事を探しに行くんだ』と言っていたんだけど…」と振り返る。

 福祉関係者は「生活保護受給者が働いて収入を得ると、基礎控除分を抜いて収入に応じて受給額が減額されるため、実はメシ付きの施設で働かないでじっとしているのが一番貯蓄できるのです。貯蓄するため稼ごうと思ったら、所得証明のないやり方で収入を増やすしかないというのが生活保護の矛盾です」と指摘する。

 実際、ある程度の貯蓄がなければ、就職活動をして、きちんとした給料をもらえる会社で働き、アパートを借りるという生活保護からの脱却ができない。生活保護受給者は、自立の端緒となる貯蓄が作りにくい状況にあるようだ。

 道端容疑者の言う「仕事」がまともな仕事か、銭湯荒らしかは定かでないが、生活保護制度の矛盾を解消しない限り、こそ泥などの犯罪者は減らないかもしれない。